2013年12月03日

屋久島は英語でどう表記すべきか?

最近、屋久島を英語でどう表記すべきか、改めて考える機会があった。

私はこれまでYakushima Islandを使って来た。この表記はshimaとIslandの意味が重複しているので、英語と日本語を両方知っている人にとっては違和感があるだろう。英語としては文法的に誤りである、という見解もあるそうだ。

そこで、Yaku Islandという表記も考えられる。例えば、西表島の場合は、日本語の日常会話で島をさすのに単に「西表」と言うので、Iriomote Islandという英語表記には全く問題がない。しかし、屋久島の場合、ふだん島のことをさすのに「屋久」という短縮形を使うことはないので、違和感がある。さらに、-shimaをつけない表記は、一般化しようとすると色々不都合が生じる。例えば、屋久島の隣の種子島はどうか。Tanega Island?Tane Island? 奄美大島はどうか?Amamio Island? 

今年の10月に台風27号の土砂災害があった伊豆大島がどう英語表記されているか、ネットで検索すると Izu Oshima Islandという表記が多いようだ。the island of Izu Oshimaという表現もあるが、まだるっこいので、科学論文のタイトルや要旨にはむかない。

固有名詞に含まれる「島」の重複をさけるため、Yakushima islandという表現も可能かもしれない。しかし、日本語を知らない人は、固有名詞につくislandの語頭iが大文字Iになっていないことを、文法上の誤りと思うだろう。

色々問題はあるのだが、やはり私は論文のタイトルや要旨にはYakushima Islandを今後も使うつもりだ。本文では、the island of YakushimaやYakushima, an island in the south of Kyushuなどと最初に島であることをはっきりさせ、あとは単にYakushimaと表記してもよいだろう。

ラベル:生物学
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2013年06月13日

森林の成層構造

森林では高さの異なる植物が共存し、垂直方向に層をなしている。植物の種によって到達できる高さに違いがあり、森林の最上層(林冠)を構成する種を高木、それよりやや低い種を亜高木、林冠に到達しない種を低木、最下層に生えている植物を林床植物などと呼んで区別する。同様に、種を区別しない場合の個体や葉群についても層構造を認めることができる。この層構造(英語ではstratification)のことを最近は「階層構造」と呼ぶことが多い。高校生物の教科書でも「階層構造」という語が使われている。
 
しかし、日本語の「階層構造」は、一般的には「社会組織構造」(例えば、平社員→係長→課長→部長→社長)について、自然科学では「入れ子構造」について用いるのがふつうである(英語ではhierarchy)。自然科学の入れ子構造の例としては、物理学(素粒子→陽子・中性子→原子→分子)、生物学(分子→細胞→個体→個体群→群集→生態系→景観→生物圏、また、個体→種→属→科→綱→門→界)、天文学(太陽・惑星→太陽系→銀河系→宇宙)などの例がある。
 
一方、森林の層構造のような「積み重ね構造」については、自然科学では「成層構造」という用語をあてる場合が多いようだ。例としては、地球の大気(対流圏→成層圏→中間圏→熱圏→外圏)や地殻(内核→外核→マントル→地殻)がある。ただし、土壌の場合は単に「層構造」と呼ぶのがふつうである(基岩→C層→B層→A層→落葉落枝層)。
 
『森林生態学』(2011、共立出版)を編集するときに、森林の層構造と生物学の入れ子構造の双方を記述するのに同じ「階層構造」という言葉が使われていること、また、ひとりの著者だけが前者に対し「成層構造」という用語を使っていることがわかった。そこで用語を整理する必要が生じ、編者・著者で相談した結果、森林の層構造に対しては「成層構造」を用いるべきという結論に落ち着いた。
 
日本語の文献で森林の層構造がどのように呼ばれてきたか調べてみた。調べてみると、「成層構造」という用語もかつては結構使われていたことがわかった。私の印象では植物社会学の影響で「成層構造」ではなく「階層構造」が主流になったのではないかと思われた。植物社会学の文献を見ると「階層構造」という組み合わせは意外に出てこないが、「階層」だけなら必ずと言っていよいほど出てくる(ブラウン‐ブランケ『植物社会学』など)。植物社会学では、植生調査の際に階層ごとに被度を記録するためである。「階層」に慣れ親しんでいると、「階層構造」という用語が自然に出てくるのだろう。
 
成層構造
依田恭二(1971)『森林の生態学』築地書館
小川房人(1974)『熱帯の生態I』共立出版(層構造とも)
吉良竜夫(1976)『陸上生態系』共立出版
リチャーズ(植松真一・吉良竜夫訳)(1978)『熱帯多雨林』共立出版
田川日出夫(1982)『植物の生態』共立出版(ただし、プランクトンについて)

層構造・断面構造
小川房人(1980)『個体群の構造と機能』朝倉書店
吉良竜夫(1983)『熱帯林の生態』人文書院

階層構造
沼田真編(1959)『生態学体系Ⅰ巻植物生態学1』共立出版
佐々木好之(1973)『植物社会学』共立出版
伊藤秀三編(1977)『群落の組成と構造』朝倉書店
ホイッタカー(宝月欣二訳)(1979)『生態学概説第2版』培風館
飯泉茂・菊池多賀夫(1980)『植物群落とその生活』東海大学出版会
中西哲ほか(1983)『日本の植生図鑑〈I〉森林』保育社
堤利夫編(1989)『森林生態学』朝倉書店
文部省・日本植物学会(1990)『学術用語集植物学編(増訂版)』丸善
四手井綱英・吉良竜夫監修(1992)『熱帯雨林を考える』人文書院

『生態学事典』(1974、築地書館)には、階層構造と成層構造両方の項がある。

階層構造:植物群落内にみられる葉層の成層構造
成層構造:環境条件の変化に従って植物群落や動物群集に現れる層構造。水平的成層構造と垂直的成層構造とがある。

『生物教育用語集』(1998、東京大学出版会)には、階層構造の項があり、『生態学事典』(1974、築地書館)とほぼ同じ説明(植物群落…層状構造)がされており、以下のように補足されている。この補足は、田川(1982)『植物の生態』の用例を指しているように見える。

類似の概念である成層構造は一般に分布が層状になる場合をさすので、湖沼におけるプランクトンの分布などにも用いる。

『生物学事典(第4版)』には「階層構造」の項はなく、「階層的構造」という項がある。そして、「階層的構造」はstratificationではなく、hierarchyを意味する。
ラベル:生物学
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2013年06月07日

里山=山谷村

四手井が一般向けの書籍で初めて「里山」という言葉を使ったのは、1974年刊の『もりやはやし』においてである。四手井は晩年に里山=農用林という定義に固執したが、このときすでに以下のように述べている。
 
 …里山は農用林といわれ、林業の用に供されたというよりも農業の犠牲林であったといったほうがよいであろう。
 
では、里山(=農用林)と農地を合わせた農村のことはなんと呼べばいいのだろうか?四手井は以下のようにも書いている。
 
 …里山と農地という物質の流れをともなった人工生態系…
 
現在では、多くの人が里山を日本の伝統的な農村景観を意味する言葉として使用しているが、狭義には里山とは農村の中の森林で覆われた山の部分(里山林)を指し、農地は含まない。文字面から受ける印象では、平坦地に成立する水田を里山に含めて呼ぶのはおかしいように感じる。
 
川喜田二郎は、1960年に刊行された『日本文化探検』所収の論考「山と谷の生態学」で、水田と森林が隣接する日本の日本の伝統的農村=里山の空間構造が、日本独特の地形からもたらされた可能性を指摘している。当時は里山という言葉はまだ一般に流布していなかった。
 
 …林野は、少なくとも水田に適さない傾斜地があったればこそ護られてきたのである。逆に水田とその肥沃度は、林野によってこそ保たれてきたのである。山と谷と村とは、こうして緊密な生態学的体系をなし、そこに日本人的生活様式のもっとも伝統的なものが育ったのであった。
 
そして、このような日本独特の「林野と水田という生態的結合」を指す言葉として、その基盤となる地形に着目し、「山谷村」という言葉を用いている。
 
 …日本には山も平野もない。あるのは「山=谷」のみである。
 
「山谷村」は、農村景観全体を指す言葉としては「里山」より適している。しかし、「山谷村」という言葉には、人の営みによって維持されてきたというニュアンスは感じられない。その意味では人間くさい「里山」のほうが、イメージを喚起させやすく、それゆえ一般に受け入れられたのだろう。
 
 
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 22:42| 覚え書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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