2012年07月05日

チルターン丘陵の草本

チルターン丘陵は花の名所でもある。放牧地として維持されている草原には色とりどりの花が咲く。地質が石灰岩であることも重要で、石灰岩地に分布が限定される種も多い。
 
Common rock-rose (Helianthemum nummularium)。石灰岩草地に特徴的な種。アジアには分布しないハンニチバナ科(Cistaceae)に属する。ハンニチバナ科は環大西洋分布(ヨーロッパ・アフリカ・南北アメリカ)を示し、おそらくゴンドワナ大陸で起源した。フタバガキ科と近縁で、ともに外生菌根をつけることから、ゴンドワナ大陸に存在したフタバガキ科とハンニチバナ科の共通祖先が外生菌根との共生関係を確立したと考えられている(共立出版「森林生態学」の第1章Box参照のこと)。
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Field scabious (Knautia arvensis) マツムシソウ科(Dipsacaceae)。キク科と同じように多数の小さい花が集合した頭花をつける。APG分類体系ではマツムシソウ科とキク科はともにキク亜綱に位置する。ただし、マツムシソウ科はキク科よりも、頭花を持たないスイカズラ科やオミナエシ科とより近縁である。
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Small scabious (Scabiosa columbaria)。これもマツムシソウ科。
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ヤエムグラのなかま(アカネ科)。Hedge bedstraw (Galium mollugo)イメージ 4
 
これもヤエムグラのなかまで、Lady's bedstraw (Galium verum)だと思う。日本には白花の種しかないと思う。イギリスでも花が黄色いのは本種のみのようだ。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 05:14| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月04日

チルターン丘陵の樹木

ロンドンの北西に位置する石灰岩の丘陵地帯チルターンには、放牧地、農地、森林がモザイク状に組み合わさった里山的景観が見られる。イギリスの中でも森林がまとまって存在する数少ない地域である。優占種はヨーロッパブナだが、ほかにもいろんな樹木が生育している。ヨーロッパの森林は日本に比べて多様性が低いのだが、思っていたよりは種数が多い。
 
一番個体数が多いのはサンザシ(Crataegus monogyna、英名hawthorn、バラ科)であろう。生垣(hedgerow)を構成する代表的な低木。放牧地や農地が森林に遷移していく過程の二次林にも多い。耐陰性が低いのか発達したブナ林の下層には見られない。
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道端に多く、生垣に混じり、たまに庭にも生えているニワトコ(Sambucus nigra、英名elder、スイカズラ科)。
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 二次林でしばしば優占するアオダモ(Fraxinus excelsior、英名ash、モクセイ科)。
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ブナ林の低木で一番多いのはハシバミ(Corylus avellana、英名hazel、カバノキ科)。切られても萌芽するので、繰り返し伐採される萌芽林(coppiced woodまたはcoppice)の代表的低木。かつてチルターンはロンドンへ燃料用の薪を供給していたという。
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クロウメモドキ(Rhamnus catharica、英名buckthorn、クロウメモドキ科)。
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セイヨウヒイラギ(Ilex aquifolium、英名holly、モチノキ科)。ほとんどの広葉樹が落葉性のイギリスの森林では例外的に常緑の低木。遷移が進んだブナ林の林床に生える。二次林では見かけない。赤い実がついた枝はクリスマスの飾りでおなじみで、庭にもよく植えられている。モチノキ科なので、葉が互生する。日本産だとアマミヒイラギモチというのが同じような葉をしている。日本のヒイラギは対生でモクセイ科なので、他人の空似。
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ウラジロノキ(Sorbus aria、英名whitebeam、バラ科)。葉の裏に白い毛が密生しており、風にそよぐと樹冠が白銀色に輝いて遠めにもよく目立つ。林縁に多い。イメージ 7
 
ガマズミ(Viburnum lantana、英名Wayfaring tree、スイカズラ科)。
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ニシキギあるいはマユミ(Euonymus europaeus、英名Spindle、ニシキギ科)。
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イバラ(Rosa canina、英名dog-rose、バラ科)。イギリスのイバラの種数は多い。ピンクの花をつけるのも何種かあり、同定に自信がないが、花の直径が3~5cmと大きいのがdog-rose。イメージ 10
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 03:51| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月02日

イギリスのブナ林

植物生態学の古典的論文のひとつに、1947年にイギリス生態学会誌に発表されたAlex S. WattのPattern and process in the plant communityというのがある(Journal of Ecology 35: 1-22)。いわゆるギャップダイナミクスの先駆けとなる「再生複合体(regeneration complex)」という概念を提唱した論文である。その実例として7つの植物群集が取り上げられていて、森林としてはブナ林が出てくる。パッチ構造を持った、さまざまな樹齢の個体からなるブナ林(all-aged beechwoods)が存在する場所としてthe Chilternsという地名が出てくる。これはロンドン北西部の郊外、ロンドンとオックスフォードの中間に位置する丘陵地帯、Chiltern Hillsのことである。3本の鉄道(チルターン鉄道の2本とロンドンミッドランド)がこの丘陵地帯を横断しているので、ロンドンから電車で40分程度で行くことができる。
 
これはLondon Midland鉄道のTring駅から歩いて30分ほどの森(Aldbury Nowers Wood)。
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林床がスカスカなのは、ブナの樹冠が厚くて暗いせいもあるが、シカの食害の影響もあるだろう。根返りした倒木があり、うっそうとした感じに見えるが、周りは牧場や畑や針葉樹の造林地であり、この森も以前は畑か放牧地であっただろう。
 
同じ場所を11月に再訪。
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10月のWendover Woods。
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こちらが葉と実。ヨーロッパブナFagus sylvatica。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 07:20| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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