2012年07月15日

ロンドン周辺の地質

ブリテン島南東部の地質は、基本的には古生代白亜紀後期に形成された未固結の石灰岩(白亜、chalk=チョーク)である。ただし、ロンドン平野(テムズ川流域)とハンプシャー平野(サウサンプトン・ポーツマス・ブライトン周辺)は向斜(syncline、地層が褶曲して谷状になること)により沈降して凹地になり、そこに新生代第三紀の未固結の堆積物がたまっている。したがって、ロンドン周辺で石灰岩が地表に出ているのは、ロンドンの北側ではテムズ川上流部からイーストアングリア(テムズ川河口の北東の半島部)にかけて、ロンドンの南側ではポーツマスより東のブリテン島南海岸である。
 
ロンドン北側の石灰岩地帯は、南西⇔北東方向に帯状に広がっており、そのうちロンドンの北西(ちょうどロンドンとオックスフォードの中間あたり)に位置するのがチルターン丘陵である。下の写真はチルターン丘陵Tringにおけるチョーク採掘抗(chalk pit)のようす。手前が丘陵の石灰岩草原で、侵入した低木のサンザシなどが生えている。その丘陵のふもとにチョーク採掘抗があった。左側は放棄された採掘穴で、水がたまって池になっている。
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ロンドンの南側の石灰岩地帯は東西方向に帯状に続いていて、ロンドンに近いNorth Downと南海岸沿いのSouth Downという2列に分かれている。North DownSouth Downの間には堆積岩地帯のWealdがある。Wealdはロンドン南部の石灰岩地帯が背斜(anticline、地層が褶曲して尾根状になること)によりドーム状に隆起した後に、表層の石灰岩が侵食により失われ、石灰岩の下の(=より古い:ジュラ紀~白亜紀前期)堆積岩が露出してできた部分である。科学史上最初(1825年)に命名された恐竜であり、発見者が親指の骨を鼻の上の角として間違えたことで有名なIguanodonの最初の化石が見つかったのが、このWealdの地層である。以下が南北DownとWealdの地質の成り立ちの解説。North Downのすぐ南のWealdに位置するLeith Hill(ブリテン島南東部の最高点, 294m)の展望台の展示より。
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ロンドンのすぐ南にあるNorth Downを東にたどるとドーバーに出る。海岸には有名な石灰岩の崖ホワイト・クリフがある(https://vegetation.seesaa.net/article/a14228881.html)。ロンドン南部のNorth Downには、ツゲの自生地Box Hillやダーウィンが住んでいた村Downeがある。
 
一方、South Downは基本的には南海岸沿いに続いているのだが、ブライトンより西側は沈降してハンプシャー平野になっているし、ドーバーに近いほうは石灰岩の下の堆積岩が露出したWeald地帯になるため、石灰岩が海岸の崖を作っている範囲は意外に狭い。South Downの崖の代表がセブン・シスターズである(https://vegetation.seesaa.net/article/a14265694.html)。
 
Downというのは、古い英語の「丘」に由来しており、up-downのdownではない。石灰岩の丘は緩やかな起伏を持ち、放牧地になることが多い。ダーウィンが住んでいた村Downeの名はDownに由来する(https://vegetation.seesaa.net/article/a14182595.html)。
 
一方、Wealdは、古い英語で森林を意味する。こちらも地形は決して急ではないが、2列の石灰岩の丘陵(南北のDowns)にはさまれた間にあって、鉄道が通るまでは交通の便が悪いため開発が遅れ、森に覆われていたらしい(R. Fortey, The hidden landscape 1993)。ロンドンからの国内線が多く就航しているガトウィック空港やキュー植物園の分園Wakehurst PlaceがあるのがWealdである。Wealdの最高地点Leith Hillからガトウィック空港がかろうじて見えた。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 14:08| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月13日

スコットランドの気候

スコットランドでは、偏西風に対応した降水量のパターンがある。大西洋上から吹き付ける偏西風がスコットランドの山並みにぶつかり降水をもたらす。このため西岸の方が東岸より降水量が多く、特に西岸に近い山地(ベンネビスなど)で多くなる。
 
たとえば、スコットランド南部低地地方(北緯56度)の年降水量は以下のようである。
西海岸のキルマーノック(Kilmarnock, グラスゴーの南西、標高97m):1105mm
西岸山地のカトリン湖(Loch Katrine, グラスゴーの北、標高244m):2068mm
東海岸のエジンバラ(標高41m):665mm
 
スコットランド北部のハイランド地方(北緯57度)では以下のとおり。
西海岸の沖にあるタイリー島(Tiree, フォートウィリアムの西、標高12m):1145mm
西海岸のフォートウィリアム(標高20m):1935mm
西岸山地のベンネビス山頂(標高1344m):4082mm
東岸山地のブレイマー(Braemar, 標高339m):899mm
東海岸のアバディーン(標高65m):755mm
 
以上のように西海岸はけっこう雨が多い。特にベンネビスの山頂の4000mm以上というのはすごい。1883–1904年に頂上に気象観測所があって気象を観測していた。そのときにとられたデータ。今でも廃墟が残っている。1914年6月20日に日本の登山家辻村伊助が登った時には、この観測所と一続きの隣に有人小屋があった。値段が高いのに驚きながら6ペンス払って紅茶を飲んだという(「ハイランド」平凡社ライブラリー)。別の箇所にスコットランドでは夕食には1シリングで充分との記述がある。1970年までは、12ペンス=1シリングで、20シリング=1ポンドだった。現在はシリングは廃止され、100ペンス=1ポンドとなっている。
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スコットランド西部に原生林がもしあったなら、北米西海岸(アラスカ~オレゴン)と同じような「温帯多雨林」になっていただろう。ただし、高木性針葉樹はヨーロッパアカマツだけなので、北米とはちがって落葉広葉樹のナラが優占する林になるが。
 
ハイランド地方にはベンネビスやケアンゴーム(Cairngorm)山地など1000mを超える山々がある。海岸部のアバディーン(標高65m、年平均気温7.9度)の月平均気温は以下のとおり。暖かさの指数を計算すると39.7となる。
JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDec
3.23.44.56.38.811.813.613.411.58.75.63.9
 
アバディーンからディー川(River Dee)沿いにブレイマー(標高339m、年平均気温6.3度)に上がると以下のようになり、暖かさの指数は30.7である。
JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDec
11.22.44.9811.312.712.29.96.63.31.7
 
ハイランド最高峰のベンネビス(標高1344m、年平気気温マイナス0.3度)だとこうなる。暖かさの指数は0.1しかない。

JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDec
-4.4 -4.6 -4.5 -2.4 0.5 4.4 5.1 4.6 3.4 -0.4 -1.7 -3.8

 
森林限界に対応するのは、ケッペンの気候区分では最暖月平均気温10度、暖かさの指数では15である。ブレマーはまだ気候的な森林限界より下だが、ベンネビスの頂上は森林限界を大きく超えている。ハイランドの山々は確かに森林限界を超えている。
ラベル:ヨーロッパ
posted by なまはんか at 02:12| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年07月12日

イギリス最高峰ベンネビス

イギリス最高峰のベンネビス(Ben Nevis)に登ってきた。頂上の標高は1344mしかないが、登山口の標高が20m程度なので、高低差は1300m以上ある。道標はほとんどないが、登山道はしっかりしていて、天気がよければ道に迷うことはない。フォートウィリアムという町のすぐ背後にあり、古くからの放牧の影響で原生的な植生はまったく残っていない。
 
フォートウィリアムからだと手前の丘(標高260mのCow Hill)にさえぎられ、ベンネビスは見えない。フォートウィリアムと湾を挟んだ対岸のCorpachという町からだとよく見える。台地状の山頂部に黒く突き出ているのが頂上。右手前の横に伸びた丘がCow Hill。そのふもとにフォートウィリアムがある。西北西から見たところ。
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フォートウィリアムに近づき北西から山すそを見たところ。水力発電のパイプが見えるその背後にベンネビスの北壁の崖に通じる巨大なU字谷の入り口が見える。
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標高400m程度までは、谷沿いの急斜面(おそらく家畜が近づけない)にカバノキ(Betula pubescens, 英名downy birch)が出現する。下はベンネビス西麓の谷グレンネビス(Glen Nevis)の東斜面の写真。イギリスにはモミ属もトウヒ属もカラマツ属も自生しない。原生状態ではヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris、英名Scots pine)が生えるはず。なお、スコットランドでは、ベンは山、グレンは谷を意味するので、ベンネビスはネビス山、グレンネビスはネビス谷という意味。
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ベンネビスの登山道の入口(標高20m)にはビジターセンターがある。ビジターセンターから見ると山肌に樹木はない。
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登山口付近は牧場になっている。
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牧場を通り抜けてしばらく行くと、ワラビの藪になり、やがて森林が出てくる。林縁部にはヨーロッパアカマツが生えている。植林したのか自然に生えたのか判然としない。土壌の発達した場所での、牧場草原→ワラビ草原→森林という遷移系列が空間的に配列しているのでしょうね。
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しばらく行くとカバノキのほぼ純林となる。たまにナナカマドやヤナギが混じる。
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下の写真は岩の隙間からナナカマド(Sorbus aucuparia, 英名RowanまたはMountain ash)が生えているところ。動物が届かないところならばよく育つので、気候的な森林限界はずっと上のはず。
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標高400mをすぎると樹木はなくなり、ヘザーの藪(いわゆるヒース)になる。まだ咲き始め。もう少したつと、一面紫色になるだろう。土壌が発達しない急斜面ではワラビは生えられず、遷移系列は草原→ヒース→森林となるのかなあ?
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ヘザーのあった急斜面を登りきると、草原になる。緩斜面なので放牧の影響が大きいだろう。標高は500m程度。はるか上方で登山道が中央の沢を横断するのが見える。現在の登山道はそこへ向かって沢沿いを進むのではなく、いったん左側の台地に上がる。
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台地上の標高570mには湖(Lochan Meall an t-Suidhe) がある。その湖のそばを通ってから、先ほどの沢へ向かってまた斜めに上っていく。来た道を振り返ったところ。
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沢の渡渉点の手前まで来て下を見たところ。Zを左右逆にしたように見える登山道が湖のある台地に上がっていくのが見える。はるか下に見える水面は湖ではなく、フォートウィリアムの面している湾。
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渡渉してから上を見たところ。これより上は草原がパッチ状に分布。標高800m程度。
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標高1000mぐらいまであがって、頂上の台地を見上げたところ。一面ガレ場で、ところどころ植生のパッチが点在。
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頂上部の台地に上がってしばらくすると、はじめて残雪が出現。もう植物は見当たらない。標高1200m程度から来た道を振り返ったところ。
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台地をしばらく行くと北壁の絶壁に近づいているのに気づく。登ってきた道を振り返ったところ。標高はすでに1300m。
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山頂に到着。標高1344m。
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北壁の崖を覗き込むと残雪が見える。山頂から西向き。
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反対側(山頂の東)には赤い地肌が印象的な山が見える。
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ベンネビスはスコットランドの北部、北緯57度に位置する。夜は10時半までうす明るかった(北緯51~52度のロンドンだと9時まで)。ベンネビスより北東にあり、森林がよく残っているCairngorm山地(最高峰は1309m)での研究によると、気候的な森林限界の高さは500~800m程度だと思われる(Watt & Jones 1918, J. Ecol. 36: 283-301)。
 
私は登りに3時間、下りに2時間半かかったが、下りで膝をいためてしまった。
 
ラベル:登山
posted by なまはんか at 04:44| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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