2012年09月15日

ケアンゴーム山地

ケアンゴーム山地はスコットランドの屋根である。ブリテン島の最高峰はベンネビス(1344m)だが、スコットランドのハイランド地方の南西海岸にやや孤立する。ケアンゴーム山地はハイランド地方南部の中央部から東部までの広大な地域を占め、ブリテン島第2位のベンマクドゥイ(1309m)をはじめ1000m級の山々が連なる。
 
ケアンゴームは山地全体の名前でもあり、特定のピークの名前でもある。Morlich湖からケアンゴーム山地を見たところ。一番左の丸いピークがケアンゴーム(1245m)。ケーブルカー(funicular railway)が敷設され、冬はスキー客に利用される。その右には圏谷が3つ連続している。
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ケーブルカーの麓駅付近からMorlich湖の方を見たところ。ヨーロッパアカマツの森林限界は450m程度。森林限界の上にも孤立木が点在する。氷河に運ばれたと思われる迷子石(erratic stone)も点在する。イメージ 4
 
迷子石の一つを拡大してみたところ(標高550m)。孤立木は樹冠が偏った扁形樹(flagged tree)になっている。
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ふもとの町アビモア(Aviemore、200m)からの眺め。一番左のピークがケアンゴーム山。中央やや右寄りに巨大なU字谷が見える。
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そのU字谷を拡大してみたところ。なんと発音するかわからないが、Lairig Ghruという谷。谷底の標高は約500m、両側の山頂部は1000m以上あるので、谷の深さは500m以上ある。
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ラベル:ヨーロッパ
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2012年09月11日

スコットランドの森林限界

スコットランドの1000m級の山々が気候的に森林限界を超えていることは明らか(https://vegetation.seesaa.net/article/a13627730.html)だが、森林限界の自然な姿が残っている場所は全くないと言ってもよい。なだらかな地形のため、ほとんどすべての山々が放牧の影響を受けている。そのような中で、スコットランドで一番高い森林限界として知られている場所がケアンゴーム山地(Cairngorm Mountains)にあるCreag Fhiaclachという山である。ケアンゴーム山地の最高峰Ben Macdui(1309m)の北西10kmほどにある標高約700mの尾根である。
 
標高300mのふもとからCreag Fhiaclachを見たところ。イメージ 1
 
山火事の影響か、山のふもとはヒースにヨーロッパアカマツが点在するサバンナのような景観になっている。一面に紫色なのはヘザー(heather)が咲いているため。
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しばらく斜面を登り、標高400m程度になると立派な亜高山帯林になる。ほぼヨーロッパアカマツの純林。まれにナナカマドとカバノキが混じる。下層はヒースと同様にヘザーが密生する。
 
 
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標高約500m。高木層がややまばらになり、下層にセイヨウネズ(juniper)が目立つ。ヨーロッパアカマツには、名前のとおり枝が赤い個体もある。
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森林限界は標高約600m。ただ、それより上のヒースにも樹高1m未満のヨーロッパアカマツが点在する。
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標高700m程度まで上がって森林限界を見下ろしたところ。森林限界より上にも小さなマツが点在するのがわかる。
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森林限界より上に点在するヨーロッパアカマツは、風の弱い谷間近くでは比較的きれいな円錐形をしている。
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風当たりの強い尾根の上では主幹が枯れて横に広がった樹形(Krummholz)となる。
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スゲが風になびいているのがわかるだろうか。かなりの風である。
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これが一番尾根の上付近(約700m)。ほとんど匍匐している。これより上にはもう樹木はないので、ここが樹木限界ということになる。
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ヨーロッパアカマツのほか、セイヨウネズも森林限界より上まで生育する。ただ、こちらは森林内でも匍匐樹形となるがふつうなので、これが森林限界ならではの姿というわけではない。
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アメリカ北東部のワシントン山の森林限界(https://vegetation.seesaa.net/article/a4134239.htmlhttps://vegetation.seesaa.net/article/a4567835.html)にくらべると、ワシントン山ではクルムホルツが密生して森林限界と樹木限界が一致していた。スコットランドでは、森林限界の上にクルムホルツが点在し、森林限界(600m)の約100m上に樹木限界(700m)がある。スコットランドでは森林(亜高山帯)から草原(高山帯)への変化が、森林限界→樹木限界と段階的に起こる。過去の放牧や伐採の影響で、森林限界が樹木限界より下にあるのだろう。森林限界が不連続にヒースに移り変わるところはキリマンジャロと似ている(https://vegetation.seesaa.net/article/a14136051.html)。
ラベル:生物学
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2012年07月17日

石灰岩地に生える植物

イギリスで石灰岩地に分布が限られる樹木にツゲ(Buxus sempervirens, box tree, ツゲ科)がある。
成長が遅くて材の比重が重いため、用材として重宝されたのもイギリスと日本で共通している。イギリスでは自生地は3か所の石灰岩地だけで、おそらくほかの場所では切りつくされてしまったのだろう。
 
チルターン丘陵にも自生地があるので見に行った。大きな個体が多数見られるのは、谷沿いの急斜面である(Ellesborough Warren)。高木がまばらな二次林で、ツゲはほとんど被陰されない状態で生えていた。多くの個体は根元から複数の幹が出る「株立ち」になっていて、直径20cm、樹高10mぐらいの幹もあった。同じ根元から出ている幹は同じぐらいの太さがそろっているのが多い。この場所では幹は垂直に伸びているものが多く根元のほうには枝がないので根際が見えた。
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少し離れた場所の、鬱閉した林冠を持つ発達した二次林では、ツゲが林床に点々と生えている様子が観察できた(Little Kimble Warren)。こちらのほうが原生状態での生育の仕方に近いのではないかと思われた。点々といっても、一つ一つの「点」は横幅数mの藪になっている。藪の中には背丈より高く伸びている枝先もあるのだが、腰あたりよりも下は枝が地面までびっしりついていて、内部が見えない庭木のツツジのようになっている。このように、暗い林床では樹形がまったく異なっていた。根元の様子が見えないので、どのようにしてこのような横長の藪を作っているのか不明である。枝が這っているだけなのか、伏条更新しているのか、根から萌芽しているのか、単に集中分布しているのか。観察したところ、枝が地面に這うように伸びているのと、稚樹が藪のすぐ外側に生えているのは観察できた。なので、枝が這うことと、何個体もがまとまって生えることは、藪の形成原因として有力である。稚樹が藪のすぐ外側にだけ生える理由としてはシカの食害が考えられるが、食痕には気づかなかった。
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 ツゲの手前の地面をびっしり覆っている草本はDog's mercury(トウダイグサ科ヤマアイ属)。イングランドの石灰岩地を特徴づける種で、ブナ林の下層に生えることが多い。http://blogs.yahoo.co.jp/aibaboston/16244597.html
 
以上のチルターンの自生地の地名には、ほかの場所ならWoodとかHillとかつくところにWarrenという単語がついている。Wikipediaによると、Warrenとは、a place where rabbits breed and live, thus a network of underground interconnecting rabbit burrowsだそうな。昔はウサギの住んでいるような草地だったのだろうか。しかし、そんな場所にツゲが生えていたとも思えない。
 
日本のツゲとは別種だが、見かけはそっくりである。
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ツゲは日本でも石灰岩地に生えることがある。九州にそのような場所で天然記念物になっている場所があるようだ(福岡県朝倉市古処山)。屋久島では標高1300mより高いヤクスギ林の林床に生えている。屋久島ではあまり株立ちしないし、大きい個体は比較的垂直方向に伸びて、地面に這うように生えることはない。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 04:32| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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