2012年04月04日

中国雲南省の熱帯季節性多雨林

国際学会のエクスカーションで中国雲南省シーサンバンナの熱帯季節性多雨林を訪ねた。シーサンバンナ植物園(XTBG)から5kmの標高750m。XTBGの1ヘクタール調査区がある(55kmプロットと呼ばれていた)。熱帯季節性多雨林というのは奇妙な言葉だが、落葉樹がわずかに混じるほかは相観は熱帯多雨林と変わらない。
 
これが森林を外から見たところ。林縁部なので二次林ぽいが、上層に落葉樹が混じる様子がわかる。
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これが林内。1ヘクタール調査区のすぐ外で、気象・ガス交換観測用のタワー(高さ70m)が立っている。写真中央上よりに三角形の物体が3つ見えるが、それらがタワーの一部。森林の上層に落葉樹があり、現在乾季のため落葉している。おそらくカンラン科のGaruga floribundaと思われる。
プロット内で一番高い木の樹高は46m。種数は1ヘクタールに120種(直径10cm以上)で、ボルネオの低地林よりやや少ない。
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優占種はムクロジ科のPometia tomentosa。これはPometia pinnataとシノニム(同種異名)である。この種はスリランカ・インドシナ・台湾からマレシア(マレー半島・フィリピンからニューギニアまでの地域)全域、さらにはトンガ・サモア・フィジーなどの太平洋諸島にまで分布する。ボルネオなど西マレシアではフタバガキにくらべ個体数は多くないが、フタバガキ科が少ないニューギニアの低地やフタバガキ科を欠くソロモン諸島では優占種のひとつになる。
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Pometiaは常緑樹だが、乾季にはかなり葉を落とすようで、林床には落葉が多数見られた。黄色いのがPometiaの落葉。
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調査区の入口にイズセンリョウ(Maesa japonica)にそっくりな低木があった。イズセンリョウは日本・台湾・中国南部・北ベトナムに分布するので、イズセンリョウそのものかもしれない。中国にイズセンリョウ属は29種もあるので、なんともいえない。
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調査区への道の途中に大きな鳥の羽根が落ちていたサイチョウだろうか?
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タイでサイチョウの種子散布の研究をされているKさんに聞いたところ、「先端が白くて全体が黒い尾羽でその当たりに生息している可能性が高いのはキタカササギサイチョウAnthracoceros albirostris」とのことでした。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 06:01| 中国雲南省・台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月02日

中国雲南省の植生

中国雲南省で開かれた国際学会に出席し、森林も少しばかり観察する機会があった。雲南省は中国の一番南西部に位置し、面積は394,100㎢あり、日本(370,000㎢)よりやや広い。海には面していないものの、最低標高は紅河(ベトナム北部で海に注ぐ)沿いの76m、最高標高は梅里雪山の6740mであり、その標高差は約6700mに及ぶ。標高差による温度条件の多様さに加え、降水量もさまざまである。緯度の範囲は北緯21度から29度の間で日本のように広い範囲を占めるわけではないが、標高差と降水量の変異のため多様な気候条件が存在し、さらに石灰岩地の存在もあって、植生と植物は著しい多様性を示す。雲南省には16000種の維管束植物が存在する(日本はその半分以下の7000種)。中国の4%にすぎない面積に中国全土に存在する30000種の半分以上が存在することになる。雲南省を含むヒマラヤ山脈東部地域は、面積10,000㎢あたりの植物種数では、ニューギニア・ボルネオをしのぎ、旧世界で多様性が最も高い地域である。
 
今回私が訪れたのは、雲南省の南端に位置するシーサンバンナ・タイ族自治州であり、北緯21度から22度30分の間に位置し、西部はミャンマーと、南部はラオスと接している。州のほぼ中央を南北にメコン川(中国名瀾滄江、Lancang River)が流れ、その右岸に州都景洪Jinghongが位置する。、国際学会は、Jinghongから車で1時間ほどのメコン川の支流の岸にある中国科学院シーサンバンナ熱帯植物園で開かれた。
 
シーサンバンナの森林は以下のように分類される(Zhu 2006)。
I-1. 熱帯季節性多雨林(Tropical seasonal rain forest):標高1000m以下
I-2. 熱帯山地多雨林(Tropical montane rain forest):標高900-1800m
II. 熱帯季節性湿潤林(Tropical seasonal moist forest):標高650-1300mの石灰岩地斜面
III. モンスーン林(Monsoon forest)=熱帯落葉樹林:メコン川の川岸と盆地
IV. 熱帯山地常緑広葉樹林(tropical montane evergreen broad-leaved forest):標高1000m以上の上部斜面と1300m以上の谷
 
観察できたのは、いずれもシーサンバンナ州内の、標高600m付近の2タイプの熱帯季節性多雨林と標高1700m付近の熱帯山地林(I-2なのかIVなのか判然としなかった)である。
 
標高655m(21.42°N 101.90°) のMenglaの平均気温は以下のとおり。
   Jan  Feb  Mar  Apr  May  Jun  Jul  Aug  Sep Oct  Nov  Dec Year
°C 17.9 19.3 21.9 24.7 26.0 26.2 25.8 25.8 25.4 23.7 20.9 18.0
 22.9
 
 22.77°N 100.90°EのSimaoの降水量は以下のとおり。
   Jan  Feb  Mar  Apr  May  Jun  Jul  Aug  Sep Oct  Nov  Dec Year
mm 21.3 13.5 21.3 41.1 144.2 225.7 323.3 311.7 159.8 128.5 65.7 25.2
 1498.8
11月から3月は気温が低く、降水量も少ない。これを冬と呼んでもよいのだろうが、現地では降水量のほうを重視して乾季と呼んでいる。
 
ちなみに、沖縄の那覇(26.20°N 127.60°E.、標高28m)の気温と降水量は以下のとおり。シーサンバンナと年平均気温はほとんど同じだが、夏と冬の気温差が大きい。年降水量が多く、冬も雨が多いため一年中湿潤である。このため、沖縄では乾季ではなく冬と呼ぶ。
 
Jan  Feb  Mar  Apr  May  Jun  Jul  Aug  Sep Oct  Nov  Dec Year
°C 16.0 16.2 17.8 20.7 23.3 26.1 28.0 27.7 26.8 24.1 21.0 17.8
 22.2
mm 125.0 125.9 159.2 164.5 251.6 280.1 177.5 269.9 174.7 164.5 132.6 110.6
 2138.1
 
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 21:47| 中国雲南省・台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月10日

台湾の垂直分布

台湾東部花蓮県の太魯閣(タロコ)国家公園で、標高3275mまでの垂直分布を観察した。霧のため視界が悪く、1000m以上については観察はやや断片的なものになったが、だいたいは把握できたと思う。
 
2000m以下 広葉樹林
2000-2500m 針広混交林
2500-3000m マツ林
3000-3275m ニイタカトドマツ林
 
おもに車窓からの観察だったので、2000m以下の広葉樹林では、優占種の識別が困難であった。500m以下では、オオバギやイチジク属、ラタン(籐、ツル性のヤシ)などが混じり、亜熱帯多雨林と呼ぶべき相観を呈する。1500mまでは道路脇の先駆種としてウラジロエノキ(ニレ科の常緑広葉樹、屋久島が北限)が優占する。1500mをすぎるとウラジロエノキにかわりタイワンハンノキが道端の先駆種となるが、発達した森林では広葉樹が優占し続ける。およそ1800mで最後の木性シダをみかけた。同じく1800mごろからマツが出現する。この標高帯の全域にわたって、常緑広葉樹が優占するが、落葉広葉樹もかなり多く、常緑広葉樹林と呼ぶには躊躇を感じる。
 
落葉樹が多いことを考慮してか、標高250mの燕子口の解説版は周囲の森林を「熱帯季節性雨林」と呼んでいた。しかし、北回帰線よりも北で、明瞭な冬がある台湾北部の森林を「熱帯林」と呼ぶのは不適切であろう。写真で示されている種も、一番上はホルトノキ(ホルトノキ科)、真中はハマビワ属で、日本本土の南部まで分布する種や分類群である。一番下のアカギ(トウダイグサ科、日本では沖縄に分布)は熱帯性と言ってもいいかもしれない。
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 標高300mの福磯断崖の反対側斜面。中央やや上よりに、ツル性ヤシのラタン(Calamus)が見える。
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標高500mの天祥。落葉樹が多数混交する。
 
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天祥に降りる歩道の入り口がある標高1000m地点。落葉のナラQuercusと常緑のカシCyclobalanopsisが並んで生えていた。台湾に自生するナラは1種だけなので、アベマキだと思われる。Cyclobalanopsisは13種もあるので同定は困難。ウラジロガシ・アラカシ・イチイガシ・ツクバネガシなどが日本との共通種。
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2000mを過ぎるとニイタカトウヒ(Picea morrisonicola)が出現し始め、針広混交林となる。ヒノキ(またはベニヒ・ショウナンボク)も見かけるようになる。2150mの碧緑神木では、ランダイスギ(Cunninghamia lanceolata)とタイワンツガ(Tsuga chinensis)が出現する。
 
これが碧緑神木と名づけられたランダイスギ。
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これがタイワンツガ。日本のツガに似て、幹先端が垂直には伸びず、斜上する。碧緑神木にあるカフェの下。イメージ 4
 
2200-2500mではニイタカトウヒが広葉樹の林冠から大きく上に抜きん出て、顕著な二段林の相観を呈する。ニイタカトウヒの台湾名は「台湾雲杉」。サルオガセが垂れ下がった姿はいかにも雲霧林という感じで、ふさわしい名前に思える。
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標高2500m付近から反対斜面を見たところ。斜面上部と尾根には落葉樹が多く、常緑の斜面下部と対照的。尾根の一番上の平坦面にはマツ林が広がる。マツ林が山火事跡なら、落葉広葉樹林の成因はなんだろうか?季節風?斜面崩壊?
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2500-3000mではマツ林となる。山火事跡に成立した二次林であろう。遷移が進めば、下部はニイタカトウヒが優占する針広混交林、上部はニイタカトドマツ林となるだろう。標高2565mの大嶺にて。 
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山地性のマツは何種かあるが、同定できなかった。ヤクタネゴヨウ(Pinus armandii var. amamiana)と同種のタカネゴヨウ(Pinus armandii)もあると思うが、時間がなく十分に観察できなかった。
 
3000-3275mはニイタカトドマツ(Abies kawakamii)の純林である。林床はササ(Yushania)で覆われる。 標高3100m程度。ニイタカトドマツの台湾名は「台湾冷杉」。森林限界のすぐ下で一番標高の高い森林帯を形成するので、これもふさわしい名前。
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ところどころ、ササが草原状に広がり、低木状のマツやニイタカビャクシン(Juniperus squamata)が点在するところもある。このササ原も山火事跡に成立した二次植生であろう。標高は3000m程度で上の写真よりも標高が低い。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 22:08| 中国雲南省・台湾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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