2011年10月29日

針広混交林

高木層に針葉樹と広葉樹が入り混じって生えている森林を「針広混交林」という。これを英語にそのまま置き換えると「needleleaf-broadleaf mixed forest」となる。ただし、特に熱帯や南半球温帯では、針葉樹の仲間であっても「針葉」を持たない種もあるので、針葉樹ではなく、球果植物(conifer)という言葉のほうがよいかもしれない。裸子植物(gymnosperm)とすると、球果植物以外にイチョウ・ソテツなども含まれるので、これまたよくない。
 
こちらはマキ科の球果植物(Dacrycarpus kinabaluensis, Dacrydium gibbsii, Phyllocaldus hypophyllus)を交えるマレーシア・キナバル山(標高2700m蛇紋岩)の「針広混交林」。 Phyllocladusはエダハマキという和名が示す通り、葉を欠き枝が扁平になって葉の機能を果たしており、針葉を持たない(ただし、実生には針葉がある)。なのでneedle leafという言葉は使いたくない。
イメージ 1
 
これがエダハマキの実生(みしょう、芽生えのこと)。幹から出ている針葉は真の葉。左右に1枚ずつ出ている「広葉」は枝が扁平になったもの。右側の「広葉」からは針葉が出ている。
イメージ 3
 
他方、広葉樹は針葉樹より硬い材を持つことが多いので、hardwood treeともいう。しかし、広葉樹の仲間であっても、必ずしも広い葉や硬い材を持つとは限らない。なので、被子植物(angiosperm)とする人もいる(絶滅種や南半球の現生種を研究している古植物学者や生態学者)。
 
針葉樹と広葉樹の順番をどうするかという問題、またmixedをどこに置くかという問題もある。実際のところ、英語ではどう呼ぶのが普通なのか、Google scholarでヒット数を調べてみた。針葉樹と広葉樹をつなぐ‐は/とされる場合もある。
 
needleleaf-broadleaf mixed forest 9
broadleaf-needleleaf mixed forest 2
mixed needleleaf-broadleaf forest 14
mixed broadleaf-needleleaf forest 10
 
conifer-broadleaf mixed forest 90
broadleaf-conifer mixed forest 27
mixed conifer-broadleaf forest 82
mixed broadleaf-conifer forest 118
 
conifer-broadleaved mixed forest 54
broadleaved-conifer mixed forest 6
mixed conifer-broadleaved forest 44
mixed broadleaved-conifer forest 11
 
conifer-hardwood mixed forest 79
hardwood-conifer mixed forest 10
mixed conifer-hardwood forest 486
mixed hardwood-conifer forest 209
 
conifer-angiosperm mixed forest 2
angiosperm-conifer mixed forest 0
mixed conifer-angiosperm forest 43
mixed angiosperm-conifer forest 6
 
日本語では「針広混交林」なのだが、英語では逆にmixedを最初に持ってきて「混交針広樹林」とするのがふつうのようだ。たしかに、東南アジアの熱帯低地林も「混交フタバガキ林=mixed dipterocarp forest」である。
 
「conifer-broadleaf mixed forest」または「conifer-broadleaved mixed forest」の方が、「mixed conifer-broadleaf forest」または「、「mixed conifer-broadleaved forest」よりもヒット数が多いのは、前者を用いている日本人と中国人が多いため。中国語では「针阔混交林」または針闊葉(樹)混合ひよこ」と書くようだ。
 
こちらは、スギ科(スギ)・マツ科(モミ・ツガ)の針葉樹が優占する屋久島の針広混交林(標高1000m)。
 
イメージ 2
カリフォルニアの「針広混交林」はこちら。日本と同様、スギ科(ジャイアントセコイアとレッドウッド)・マツ科(マツ属・モミ属・トウヒ属・ツガ属・トガサワラ属)の針葉樹が優占する。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 05:45| 覚え書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月12日

もののけ姫の森

屋久島の白谷雲水峡に「もののけ姫の森」と呼ばれていた場所がある。
一時期、そう書いた看板が立っていた。下の写真は2006年8月に撮影した写真。
看板を立てたために大勢の人がここを目指して来て、ここで休憩したりするようになったため、地面の苔が消失して大きな裸地ができていた。
イメージ 1
 
2008年5月には以下のような状態になったらしい。
 
手前の道が見えなければ確かに苔むして、いい雰囲気。2005年12月撮影。
イメージ 2
今はこの看板は撤去されているらしい。
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Wikipedia 「屋久島」より(2011/2/14閲覧)
 
なお白谷雲水峡に立てられていた「もののけ姫の森」看板は、スタジオジブリが、協力金を徴収している林野庁に対し「営利目的での使用は認めていない」とコメントしたことにより、撤去された。[19]
 
19.^ 2008年林野庁屋久島森林環境保全センター担当者のコメント
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 10:43| 覚え書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

林芙美子と屋久島

屋久島ゆかりの文学者というと林芙美子。
小説『浮雲』(1949年11月~1951年4月に雑誌に連載?)の「屋久島は月のうち、三十五日は雨」というフレーズが有名。
次のような文章を「青空文庫」で見つけた。
作者の死後50年が経過し、著作権が切れた作品をインターネット上に公開しているものだそう。
 
『屋久島紀行』(1950年7月発表)
 
この作品では「一ヶ月三十日は雨」というやや控えめな表現になっている。紀行文という性質上、当時(発表年月や寒さのために小杉谷に行くのをあきらめたという記述から察するに1950年の1~3月ぐらいか?)の屋久島の様子を知るうえで小説よりは資料としての価値が高いだろう。そのわりには知られていないのではないかと思う。このようにインターネットで簡単に見ることができるというのは便利である。
 
しかし、屋久島に住んでいる人や、何度も行ったことがある人なら、これらはあまりに誇張しすぎた表現であると感じるだろう。特に夏から秋にかけては晴天が続くことが多い。屋久島測候所で1999年から2008年の間、0.5mm(雨量計で記録可能なの最小降水量)以上の日降水量が記録されたのは、3653日のうち1764日である。30日あたりに換算すると14.5日が雨となる。なので、現実には、人が住んでいる低地では、雨が降るのは1か月に15日、2日に1日だけである。
 
気象庁の観測データは、ホームページに公開されていて、だれでも無料で利用できる。これまたたいへん便利である。http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php
 
林芙美子が死去したのは1951年6月(享年47歳)なので、『浮雲』も『屋久島紀行』も最晩年の作品である。、1949年11月に『浮雲』の連載を始めてから1950年早春に屋久島に取材に行き、1951年4月に完結、そのわずか2か月後に亡くなったことになる。「花の命は短くて苦しきことのみ多かりき」という句を好んで色紙などに書いたという。母の郷里桜島の古里温泉にその句碑が建つ。
 
後記:関川夏央『女流:林芙美子と有吉佐和子』(集英社2006年)によると林芙美子が屋久島に行ったのは1950年4月である。帰路には母の郷里桜島に寄ったとある。
 
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 08:20| 覚え書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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