2012年05月30日

ヤンバルガラシ(ハマガラシ)

与論島の砂浜海岸でヤンバルガラシ(ハマガラシともいう、Coronopus integrifolius = Lepidium englerianum)というアブラナ科植物を見た。花は小さいが花弁4枚の離弁花(十字花冠)なので、アブラナ科だと見当がついた。
 
イメージ 1
この植物は、初島(1980、『琉球の自然史』)によると、イソフサギなどとともに、琉球列島に分布する植物の中では数少ない「オーストラリア方面から侵入したと考えられるもの」のひとつとされている。

さまざまな文献によると本種の分布は以下のとおり。
初島(1972)植物研究雑誌47:181-186. 琉球、中国(東沙諸島:実効支配は台湾)、オーストラリア、ニューカレドニア、韓国(済州島、英文末の分布地のまとめに出てこないが英文本文中には標本への言及がある)
『改訂鹿児島県植物目録』(1986)馬毛島、宝島、奄美諸島(各島)
『Flora of Taiwan 2nd ed. vol. 2』(1986) known only from Lanyu and Lutao
『増補改訂琉球植物目録』(1994):各島(大東を除く) 海岸
『琉球列島維管束植物集覧改訂版』(1997):琉球諸島、海岸.トカラ列島宝島以南の琉球列島以外では、馬毛島、紅頭嶼、火焼島、華南、豪、ニューカレドニア

ここまでは、「オーストラリア方面から侵入した」という上の記述と矛盾しない。ところが、最近の文献では以下のとおり、アフリカ原産で、オーストラリアでも東アジアでも外来種ということにされている。

『Flora of China vol. 8』(2001) Roadside, waste palces, Guangdong, Taiwan [native to Africa]
『Flora of Japan vol. IIa』(2006) Japan (Tanegashima and Ryukyu. Roadsides, wet areas, disturbed places), Taiwan, China; native to Africa

どうやら、この記述の根拠はアブラナ科の分類学者の以下の文献らしい。
Al-Shehbaz (1986) J. Arnold Arboretum 67: 265-311.
この論文に以下のような記述がある。

Coronopus integrifolius is indigenous to Africa and is now naturalized in Australia and easternAsia.

しかし、この記述の根拠となる文献は示されていない。おそらくこの論文が発表された1986年時点では、Coronopus属が10種からなるまとまりのある属だと考えられ、ヤンバルガラシ以外の9種すべてがアフリカ(5種)または南米(4種)産であることから推定したにすぎないのではないかと思われる。

ところが、その後の分子系統学的研究により、Coronopusは多系統群であり、汎世界分布のLepidium属(狭義では約175種、広義では216種)に含まれることが示唆されてきた(Al-Shehbaz et al. 2002 Novon 12:5-11)。そうだとすると、上のCoronopus属の分布に基づくヤンバルガラシの原産地がアフリカであるという推定は根拠がないことになる。

とりあえず、ニューカレドニアではヤンバルガラシは自生種と考えられているようだ(Morat et al. 2001 Adansonia 23: 109-127)。生育地は石灰岩地(珊瑚礁起源のものと堆積岩性の2種類がある)の砂浜とその後背地に限られるらしい。

オーストラリアでは、本土では外来種とされているが、グレートバリアリーフの珊瑚礁の島々では自生と考えられている(Batianoff et al. 2009a, b)。南限は南緯23°51′のFairfax島(Batianoff et al. 2009b)。種子は海流散布と考えられている(Batianoff et al. 2009a)。南限近くのヘロン島(南緯23°26′)で3年半(1990年9月~1993年12月)にわたって継続調査した結果では、1992年7~9月にだけ見つかった(Rogers & Morrison 1994)。一方グレートバリアリーフのほぼ北端にあるRaine島(南緯11°36′)では、7回の調査(1959、1961、1973、1981、1987、1991、2003年)で1回(1973年)だけ見つかった(Hopley 2008)。これらからすると、大波や旱魃などの影響を受けやすい小さな島では、個体群が全滅しては、海洋から供給された種子により復活するという過程を繰り返しているのではないかと想像される。
 
アフリカでの生態と分布についてはAfrican Plant Database(http://www.ville-ge.ch/musinfo/bd/cjb/africa/)とCatalogue of the Vascular Plants of Madagascar(http://www.tropicos.org/Project/MADA)では次のように書かれている。だいたい海岸に生えているようだが、南アフリカでは標高1200m以上の内陸部に生えているようだ。
Trop. Afr.
Biology : Perennial herb to 20 cm tall.
  Ecology : Edges of pans and coastal lagoons and swamps; low alt. -900- 1500 m.
    Warmer regions of the Old World (widespread but sporadic);
    S. Africa, Botswana, Namibia, Madagascar.
South. Afr.
  Biology: perennial-Herb Ht 0.1 - 0.5 m. Alt 1200 - 1550 m.
  Distribution: BOT, NAM, FS, GA, NC, NW, WC
Madagascar (native but not endemic)
  Lifeform/Habit: Herb 
Vegetation Formation: Dunes and Strand 
Bioclimate: Humid 
Elevation: 0-499 m 

海流散布にしては分布が限定されている、また、南アフリカでは内陸に生育している、など非常に奇妙な分布パターンを示す植物である。分子系統学的研究をしたらおもしろそう。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 16:40| 日本の(で見た)植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年01月22日

ロウバイ

今朝の朝刊にロウバイが咲いているという記事が出ていたので見に行った。
ロウバイは中国原産の低木で、江戸時代に日本に移入されたという。
ロウバイ科(Calycanthaceae)は中国、北米、オーストラリア北東部にそれぞれ別の属が分布し、中国にはロウバイ属Chimonanthus、アメリカにはクロバナロウバイ(アメリカロウバイ)属Calycanthus、オーストラリアにはIdiospermumが分布する。すべて葉は対生する。アメリカで見たCalycanthusの写真はこちら。
 
これがロウバイの花。萼片と花片が区別できないので、あわせて花被片という。つぼみの時ほど色が鮮やかな黄色なので、花が古くなると透き通って、黒い筋が出てくるのではないかと思われる。ウメの花弁に似た花被片の透き通った感じが、蠟細工のようなので「蝋梅」と呼ぶらしい。基本種は内側の花被片が紫色。これは花被片が内側まで黄色で、花も基本種より大きい変種で、ソシンロウバイという。
イメージ 1
 
これが果実。外側に見えている部分は、花柄の先端部の花托(花床)が成長したもので、「偽果」という。中には複数の真の果実が含まれる。真の果実は種子を1個ずつ含む。
イメージ 2
 
これが樹形。根元から複数の幹が出るshrubと呼ばれる樹形。
イメージ 3
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 16:53| 日本の(で見た)植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月03日

ピラカンサ

学生が公園の植物を調べている。いろいろ園芸植物が植えてあり、種同定がやっかいである。
 
通称ピラカンサと呼ばれるバラ科の低木がある。ピラカンサは属名Pyracanthaをカタカナ読みしたもの。日本には自生せず、外来種3種の総称である。いずれも明治から昭和初期に渡来した。秋に大量につく果実が美しいので、よく栽培される。赤くて目立つ割には鳥が食べないのでずっと残っている。未熟果にはシアンが含まれ、これが鳥の大量死の原因と疑われている。しかし、ダニやアブラムシの駆除に使われる農薬EPNが原因の場合もあるらしい。
 
3種のうち、中国南部原産のタトバナモドキ(P. angustifolia)は葉の裏に白い毛が密生し、果実がオレンジ色であることから容易に区別できる。
 
問題は、あと2種のトキワサンザシ(P. coccinea)とヒマラヤトキワサンザシ(カザンデマリ)(P. crenulata)で、区別が難しい。両種とも葉が無毛で、果実が真っ赤に熟す点が共通する。
 
山と渓谷社の林弥栄編『山渓カラー名鑑日本の樹木』と、茂木透写真『山渓ハンディ図鑑樹に咲く花』には、3種とも写真付きで載っている。『日本の樹木』を見ると、トキワサンザシとヒマラヤトキワサンザシの形態の記載はほとんど同じで、樹高がトキワサンザシでは2~6mになるのに、ヒマラヤトキワサンザシでは2mほどにしかならないのが大きな違いである。『樹に咲く花』によると、ヒマラヤトキワサンザシの葉はトキワサンザシより幅が狭く、ヒマラヤトキワサンザシの花序が無毛なのに対し、トキワサンザシの花序には細毛がある。
 
学生が調べている公園にあるのは、樹高が2m未満で葉が細く、果序が無毛なのでヒマラヤトキワサンザシと思われる。下の写真は近所の庭に植えてあったもので、やはりヒマラヤトキワサンザシと思われる。この木は幹をロープで引っ張って無理やり直立させていた。バラ科の果実は子房上位と下位のものがあるが、これは「へそ」の部分に萼片が見えるので子房下位で、リンゴ・ナシ・ビワ・と同じ(子房上位はイチゴ・ウメ・モモ・サクランボ)。
イメージ 1 
トキワサンザシは東欧からコーカサス山脈(黒海とカスピ海の間にある)が原産地で、ヒマラヤトキワサンザシは中国南部からカシミールにかけてのヒマラヤに分布する。なので、もとは同じものが異所的に分化したものかもしれない。栽培条件下でピラカンサ類には雑種も多く作られているらしいので、交雑も可能なのだろう。植物では「生物学的種概念」は有効ではない。
 
トキワサンザシとは、常緑のサンザシという意味。サンザシ属Crataegusは落葉樹で、北半球に広く分布し、日本には2種が長野県と北海道だけに自生する。中国原産のサンザシ(山査子、山櫨子、Crataegus cuneata)は漢方薬、ドライフルーツなどのために栽培される。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 04:25| 日本の(で見た)植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。