徳之島の最高峰井ノ川岳に登ってきた。意外だったのは、アオキAucuba japonicaが多かったこと。なんとなく屋久島が南限のような気がしていたので。日本本土では非常に普通な植物で、スギ造林地の下にびっしり生えているのをよく見る。そのような本土くさい植物を見るとは予想していなかった。
日本国内では、北海道石狩低地以南の各地に分布し、沖縄島が南限。八重山諸島には分布せず、台湾北部に隔離分布する。アオキについては詳しい分子系統学的研究がある(Ohi et al. 2003 Am J Bot 90:1645-1652)。
アオキには、4倍体と2倍体があるが、地理的に明瞭なすみ分けを示し、中国四国地方の東部より東に4倍体が分布し、それより西は台湾まで2倍体が分布する。葉緑体DNA配列の遺伝子型の変異から見ると、4倍体は2倍体から独立に3回進化したと推定されるので、4倍体と2倍体がこのようにはっきりと分離するのは不思議である。上記の研究では、気候が寒冷化した時期に異なる遺伝子型が、別々のレフュージアに追いやられ、その後の温暖化に合わせて分布を拡大した結果、現在の地理的パターンが形成されたと推測している。
4倍体の分布域は、いわゆるヒメアオキ(北海道~本州日本海側の多雪地帯の林内低木)の分布域を含む。ヒメアオキの分布域は3回進化した4倍体のうちのひとつの遺伝子型(B-lineage)の分布域にほぼ含まれる(残念ながら、上記の研究では北海道のサンプルは含まれない)。しかし、同じ遺伝子型(B-lineage)は紀伊半島や四国東部のヒメアオキが分布しない地域まで広がっている。
2倍体の中の遺伝子型の変異を見ると、九州中部と屋久島が同じで、中四国西部~九州北部と九州南部~台湾が同じである。九州南部~台湾の遺伝子型が同じなのは、たまたま九州南部~屋久島、奄美・沖縄、台湾北部の3か所のレフュージアで同じ遺伝子型が生き残ったためなのか、長距離分散で分布を拡大したためなのか、判断がつかない。奄美以南では山地に遺存的に分布するので、現在の分布だけみると前者のような気がするが。
台湾の中南部と中国本土には別種のAucuba sinensisが分布するとされる。しかし、葉緑体DNA配列から見ると、台湾のAucuba sinensisはAucuba japonicaの変異の中に含まれてしまう。中国本土のAucuba sinensisがどうなのか気になるが、この論文では解析に含まれていない。
屋久島にも分布するが、個体数は少なくめったに見ない。あっても崖に生えていることが多いので、たぶんシカが食べてしまうせいではないかと思う。日本各地でアオキはニホンジカの嗜好種と考えられている。
posted by なまはんか at 21:31|
日本の(で見た)植物
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