2011年07月06日

植物生態学者としてのソロー

ソロー(1817~1862)は、植物生態学の先駆者としての側面を持っている。
ソローがウォールデン湖畔に住んだのは28~30歳の間の2年2か月である。しかし、植物オタクとして目覚めたのは、その後からで、身の周りの植物の名前調べに熱中するようになった。
 
ソローが植物学の勉強や名前調べに使ったのは、おそらくグレイ(1810~1888)の以下の書籍である。ソローの自署がある本が見つかっている。
The botanical textbook 1853
A manual of botany of the northern United States 1848
Manual of botany of the northern United States 1856
後二者は、同じ本の異なる版と思われる。このmanualは、アメリカ東部の植物を調べる際の必携書であり、その後継書は「Gray’s new manual of botany」としてGrayの死後も出版されている(日本の大学には1908年刊の第7版が多く所蔵されている)。1950年にもFernaldによる第8版が出版されているようだ。
 
植物のフェノロジー(生物季節:開葉・開花などの季節変化)の観察にも情熱を注いだ。日記には次のような一節がある。
 
I soon found myself observing when plants first blossomed and leafed, and I followed it up early and later, far and near sevral years in succession, running to different sides of the town and into neighboring towns, often between twenty and thirty miles in a day. I often visited a particular plant four or five miles distant, half a dozen times within a fortnight, that I might know exactly when it opend, besides attending to a great many others in different directions and some of them equally distant, at the same time.
 
1マイル=1.6kmなので、1日に20~30マイルということは32~48kmである。ソローが馬に乗っていたかどうか知らない。もしかしたら歩いていたのかもしれない。どっちにしても、ものすごい運動量である。2週間に6回(ほとんど2日に1回)も4~5マイル離れた植物を見に行ったというのもすごい執念である。現代の植物生態学者でもここまでする人はなかなかいないだろう。
それだけの労力をかけてとられた貴重なデータなので、ソローのデータは現代の生態学者からも信頼されており、そのデータと現在のデータを比較することで、ソローの時代と現代の150年の間に生じたフェノロジーの変化が分析されている。
 
ソローは植生遷移についても、successionという後に定着することになる学術用語と同じ単語を用いて、すぐれた考察を行い、死の2年前1860年にThe succession of forest treesと題する講演をおこなっている。ちなみに、生態学の分野でsuccesion の語を最初に用いたのはCowlesで、1899年のことである( "The ecological relations of the vegetation of the sand dunes of Lake Michigan" ,Botanical Gazette)。 生態学における遷移理論の古典Clementsの“Plant Succession”が出版されたのは1916年である。
 
グレイは78歳まで生きたが、ソローは45歳で結核のため早世した。その原因は1860年12月、吹雪の中、樹木の年輪を調べて風邪をひいたためだという。なぜ春を待てなかったのか・・・・?植物オタクらしい最期ではあった。
ラベル:北アメリカ
posted by なまはんか at 02:57| ケープコッド・ウォールデン湖 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月07日

ウォールデン湖:植生

ウォールデン湖の周辺は、マツ・ナラが混交する二次林。人手の入った日本の里山(たとえば関西のアカマツ・コナラ林)と似たようなものだと思う。アメリカ北東部の平野部に一般的な森林だと思われる。ケープコッドの森林とよく似ている。Eastern white pineが周囲から突き出ている。
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Black oakとEastern white pine。
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 Eastern white pineの樹冠。
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Pitch pine。海岸部のケープコッドではこの種が優占するが、マサチューセッツ州内陸部ではEastern white pineのほうが優占する。イメージ 2
ウォールデン湖では、下の写真のように湖岸に生えているのが目立った。想像するに、かつて湖岸は裸地になっていて、そこにPitch pineがまっさきに定着し、そのまま成長して残ったのではないだろうか?あと何10年もしてpitch pine(陽樹)が枯れると、下から成長してくるEastern white pineやナラ(陰樹)と交代するのではないだろうか。イメージ 6
 
American chestnut(アメリカクリ)。クリ胴枯れ病(Chestnut blight)のため、地上部は大きく成長できず枯れてしまう。このように根(厳密には幹基部?)から萌芽するので、大木は存在しなくても今のところ絶滅の心配はない。クリ胴枯れ病がアメリカで広がったのは1904年以降なので、ソローが住んでいたころは、クリがもっと多かったかもしれない。「森の生活」にクリは登場するのだろうか?
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 12:48| Comment(0) | ケープコッド・ウォールデン湖 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ウォールデン湖:ソローの小屋

ウォールデン湖の駐車場にソローの小屋が復元されていた。
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部屋ひとつだけのまさに「小屋」。ソローが自分ひとりで建てたらしい。トイレはどうしたんだろう・・・?
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池の周囲の遊歩道をたどると、小屋があった場所に行ける。
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ラベル:北アメリカ
posted by なまはんか at 11:58| Comment(0) | ケープコッド・ウォールデン湖 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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