2010年09月21日

ワシントン山の植生:垂直分布

ワシントン山の山頂に行くには3つの手段がある。東斜面には自動車道(auto road)が、西斜面には鉄道(cog railway)がある。登山道は東西南北に多数ある。今回は自動車道で頂上まで行き、その後西斜面の登山道を4000feetまで登ってみた。
 
自動車道の起点は標高1600feet。登り初めてすぐの2000feet。落葉広葉樹林の上限近く。赤く紅葉しているのはsugar maple。
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西斜面Ammonoosuc Ravine Trailの入り口。標高2500feet。広葉樹林と針葉樹林の移行帯の上限近く。濃い緑でひときわ高く突き出ているのはred spruce(Picea rubens)、下層に多くて白っぽいのは、balsam fir(Abies balsamea)。赤く紅葉しているのはsugar maple。
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自動車道約3500feet。針葉樹林帯のど真ん中。黄葉しているのは、paper birchが多い。
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東斜面自動車道4000feet。Balsam fir林の下限近く。red spruceが脱落する。写真手前は尾根の上で、強風のためBalsam firは偏形樹(flag tree)となっている。写真右奥の鞍部には発達したBalsam fir林が見える。
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西斜面登山道4000feet。急斜面だが谷の中なので、樹高が高い。Balsam firのほぼ純林。
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西斜面登山道からワシントン山西斜面の1220~1525m(4000~5000feet)付近を見上げたところ。balsam firが優占するが、ところどころ縞状に枯れているのが見える。日本の亜高山帯でも見られる「縞枯れ」である。こちらでは、fir waveと呼ぶ。Mt Fieldでも、小規模だがもっとわかりやすいものを見た。https://vegetation.seesaa.net/article/a4152035.html参照。
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自動車道5000feet。クルムホルツ帯。ほとんどbalsam firだが、black spruce(Picea mariana)も混じるらしい。
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自動車道5500feet。クルムホルツ帯と高山帯の移行部。浅い谷に沿って筋状にクルムホルツが生え(緑色の部分)、その間に風衝低木林または草本群落が生えている(茶色の部分)。このように、森林限界は一本の線ではなく、幅の広い移行帯となっている。
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自動車道6000feet。樹木限界の上の高山帯。
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標高6288feet(1917m)の山頂部。西斜面を登ってきた鉄道が、山頂駅に着こうとしている。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 10:18| Comment(0) | ホワイトマウンテンズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ホワイトマウンテンズの気候と植生

ホワイトマウンテンズの気象データ。
North Conway(北緯44°標高161m)、ホワイトマウンテンズの南麓に位置する
 JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDecYear
T-8.3-6.8-0.85.512.317.420.218.814.17.91.9-5.26.4
R90.187.693.7104.3102.1100.895.5101.887.3104.9125.7116.51210.8
Mount Washington(北緯44°標高1908m)
 JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDecYear
T-15.6-15-10.6-5.31.56.598.24.6-0.9-6.3-12.8-3
R201.6217.4227.8207.5190.7198.6179.8209.2187.4182.6263.6246.82513.5
 
麓の気候は、ちょうど同じ緯度にある旭川に似ているので、山の気候は大雪山に似ているだろう。
旭川(北緯44°標高112m)
 JanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDecYear
T-8.4-7.5-2.5511.516.220.420.815.48.61.5-4.36.4
R74.856.455.255.768.874.7112.5140.3138.5110.1113.399.71100.9
 
ホワイトマウンテンズ最高峰、ワシントン山の植生は以下のように分類されている。
610m(2000feet)以下 北方広葉樹林(northern hardwood forest)
610~760m(2000~2500feet) 移行帯(transition zone)
760~1220m(2500~4000feet) トウヒ・モミ帯(Spruce-fir forest)
1220~1370m(4000~4500feet) バルサムモミ帯(balsam fir forest)
1370~1460m(4500~5400feet) クルムホルツ帯(Krummholz zone)
1460m(5400feet)以上 高山帯(Alpine zone)
ここで、クルムホルツ帯とはバルサムモミ林が強風低温条件下で矮性化したものをさす。
 
2000feetより低くても、低い山の山頂部には針葉樹林が出現するし、下部斜面でも局所的にマツやツガが優占することがある。また、クルムホルツ帯になると、森林はもはや連続的に分布しなくなり、標高があがるにつれ断片的になっていく。そこで、下から上への順にざっくりと次のように分類することにする。
610m(2000feet)以下       広葉樹林帯(移行帯や局所的針葉樹林を含める)
610~1370m(2000~4500feet)  針葉樹林帯(=亜高山帯、バルサムモミ帯を含める)
1370m(4500feet)以上       高山帯(クルムホルツ帯を含める)
 
この写真は自動車道入り口から山頂を見たところ。山頂は、一番高いようには見えないが、左奥に見えている。入り口は1600feetなので、上の植生帯すべてが自動車沿いで見れる。写真でも、広葉樹林が針葉樹林に移り変わっているのはよくわかる(もっとも、低標高の森林は二次林なので、自然にそうなっているのではないかもしれない)。
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大雪山の植生は、低標高から山頂部にかけて以下のように変化する(環境省)。
下部広葉樹林帯
針葉樹林帯
ダケカンバ帯
ハイマツ帯
これらに加えて山頂部の高山帯には、風衝矮性低木群落と雪田植物群落が存在する(沖津)。なお、ダケカンバ帯の上限を森林限界(亜高山帯と高山帯の境界)とし、ハイマツ帯を高山帯に含める見解もある。
 
ワシントン山と大雪山の垂直分布の基本的なパターンは同じである。ただし、山頂部の植生が異なる。ワシントン山では針葉樹林帯から森林限界まで、バルサムモミ(balsam fir、Abies balsamea)1種が優占し続けるが、大雪山では針葉樹(トドマツAbies sachalinenisとエゾマツPicea jezoensis)→ダケカンバ→ハイマツと優占種が入れ替わる。大雪山ではトドマツとエゾマツ両種が針葉樹林帯の上限まで出現するが、ワシントン山では高い標高でRed spruce(Picea rubens)が脱落する。ワシントン山でもカバノキ属は森林限界近くまで分布するが、優占種にはならない。ハイマツのように森林限界近くまで分布するマツ属も存在しない。そのかわり、ワシントン山の高山帯には、大雪山と同様の低木群落・雪田植物群落のほかに、草原群落(優占種はスゲ科とイグサ科)も広く存在する。
 
グレートスモーキーでは、標高1370m(4500feet)以下が落葉樹林帯、1830m(6000feet)までが移行帯、それ以上が針葉樹林帯で、高山帯は存在しなかった(最高峰は6642feet=2024m)。移行帯を落葉樹林帯に含めて針葉樹林帯の下限を比較すると、グレートスモーキー(北緯36度)で1830m(6000feet)、ワシントン山(北緯44度)で610m(2000feet)となり、緯度8度(距離に換算すると約900km)の変化にともなってワシントン山で1220mも下降していることになる。
ラベル:登山
posted by なまはんか at 06:44| Comment(0) | ホワイトマウンテンズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月20日

ホワイトマウンテンズの地形

マサチューセッツ州の北隣、ニューハンプシャー州(NHと略す)にあるホワイトマウンテンズに行ってきた(東側のごく一部はメイン州)。主峰はワシントン山(Mt. Washington)で標高1917m(6288feet)。ノースカロライナ州(ミッチェル山やグレートスモーキーがある)より北のアパラチア山脈北部で一番高い。つまり、アメリカ北東部で一番高い山。北緯44度(北海道の大雪山と同じぐらい)とかなり北に位置するため、氷河地形が発達する。頂上に気象観測所があり、世界最速の風速が観測された場所として有名。
 
Crawford Notchの入り口(下の写真のU字谷のずっと奥)から見たワシントン山南面。頂上にアンテナが立っている。山頂部ドームの下は台地状になっている。台地の左にあって右側がえぐれているピークはモンロー山(Mt. Monroe、5372 feet=1637m)。ワシントン山頂の下、台地の下のごつごつした岩が白く見える部分は、圏谷(カール)のOakes Gulf。ワシントン山の南にあるが、山塊の主稜線(ワシントン山~モンロー山)に対しては東斜面に位置する。モンロー山は羊背岩(sheepback)と呼ばれる形をしている。氷河の上流側がなだらかで下流側がえぐれた岩のことである。ここでは、氷河が左(北西)から右(南東)に流れたことになる。キナバル山のサウスピークも同じような形をしている。
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ワシントン山を代表する圏谷のひとつ、Huntington Ravine。すぐ左(南)側の雲の中にワシントン山の山頂部ドームがある。谷の上の稜線は約5500 feet(1676m)で、そこから一気に1000feet(300m)落ち込んでいる。
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ワシントン山の北側、アダムス山(5799 feet=1768m)とマディソン山(5366 feet=1636m)の間にあるMadison Gulf。これも東斜面の圏谷。Auto roadの起点(1600 feet=488m)から見たところ。
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Mt Avalon山頂(3442 feet=1049m)から見た、ワシントン山の西斜面。一番右側のピークが山頂。東斜面のような圏谷は見られない。東斜面は大西洋に面していて降雪量が多いが、西斜面は降雪量が少ないためである。広大な皿状の地形だが、地形図を見ると浅いV字谷(氷河ではなく、河川による侵食地形)が多数存在している。
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これもMt Avalon山頂から見た、U字谷のCrawford Notch。直線部の長さは約3km。川が光って見える谷底の標高は約1250feet(380m)。上に紹介した山頂部の圏谷は山頂部に積もった雪に由来する山岳氷河(谷氷河)によるが、このU字谷は北アメリカの平野部を広く覆っていた大陸氷河によって形成されたと考えられている。
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ラベル:北アメリカ
posted by なまはんか at 10:55| Comment(0) | ホワイトマウンテンズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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