2010年06月23日

ウッドランド

ウッドランド(woodland)は、降水量が少ないため樹木の密度が低く、林冠がまばらなため林床一面が草原になっている森林を指す。乾燥が激しくなるにつれ、ほとんど樹冠が鬱閉した状態から、樹木が点在するサバンナへと移行していく。
 
これは北部海岸山地の東部クリアレイク(Clearlake)湖畔のウッドランド。落葉性のカシ2種が地形を棲み分けて優占する。手前の草原(meadow)は湖が陸化しつつあるところだと思われる。その背後の斜面がウッドランドになっている。湿った草原との境界部の山裾に沿って生えていて、新緑が鮮やかなのはValley oak(Quercus lobata)。カリフォルニア産カシの中でもっとも大きくなる。最大の個体は直径2.8m、樹高50mに達するという。それより上の斜面では、樹冠が青っぽいBlue oak(Q. douglasii)が優占する。ところどころ突き出ているのは、Ghost pine(Pinus sabiniana)。地中海性気候の硬葉樹林というと常緑のイメージだが、ここでは優占種は落葉性。夏にほとんど雨が降らないのに落葉樹が優占するのは意外だが、霧が水分を供給しているのかもしれない。なお、クリアレイクの年降水量は696mm、年平均気温は13.6℃。
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斜面のBlue oakが優占するウッドランドの中はこんな感じ。中央奥にGhost pineの樹冠もちょっと見える。外から見るよりも、木がまばらな感じがする。林床にはイネ科草本が一面に生えている。
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降水量が少ないとこのようなサバンナになる。これはクリアレイクのすぐ東のBear Valleyから、東側のセントラルバレーの方を向いて撮った写真。きれいに北斜面のほうが樹木の密度が高くなっている。一番近い気象観測点(Williams)のデータでは年降水量413mm。
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これはBear Valleyの中で東を向いて撮った写真。手前は牧場なので、斜面がサバンナになっているのは放牧の影響もあるかもしれない。ここでもきれいに北斜面のほうが樹木の密度が高い。
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なので、同じ場所から北を向いて撮影すると禿山に見え・・・イメージ 6
 
南を向いて撮影すると緑の丘に見える。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 09:14| Comment(0) | カリフォルニアの植生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

大地形と植生:セントラルバレー~シエラネバダ

カリフォルニアの大地形に対応した植生の移り変わりを、セントラルバレーからシエラネバダへと車で走りながら見てみよう。
 
旅の出発地はフレズノ(標高102m、平均気温17.4℃、年降水量269mm)。シエラネバダへの玄関口である。空港で車を借りてそのまま市内で一泊し、次の日朝早くに出かけよう。ハイウェイに乗ってセコイア国立公園を目指す。広大なセントラルバレーには農地が広がる。はるか前方に朝靄がかかったシエラネバダが見える。
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いよいよ山道にさしかかる。谷底には果樹園、丘陵地にはまばらなウッドランド(サバンナ)が広がる。
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しばらく行くと山の斜面のウッドランドは、木の密度が増えて地面が見えなくなる。
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山裾のウッドランド(Foothill woodland)の優占種は常緑カシのInterior live oak (Quercus wislizeni)。
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平らな葉の裏には光沢があり、ほとんどの葉に鋸歯がある。
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やがてポンデローサマツ(Pinus ponderosa)が出現し始め(斜面奥の針葉樹)、だんだんウッドランドというよりも森林と呼ぶほうがふさわしくなってくる。手前のこんもりした樹冠はカシだが、さっきまでとは種が入れ替わっている(後述)。
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 みるみる針葉樹が増える。
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中標高(1000~2000m)の山地針葉樹林(Mid-elevation coniferous forest)で針葉樹と混交するカシ2種。左は常緑性のCanyon live oak (Quercus chrysolepis)、右は落葉性のCalifornia Black Oak (Quercus kelloggii)。常緑性のカシは似た種がたくさんあるので同定が難しい。Canyon live oakは葉の裏に光沢がなく、個体内で葉に鋸歯があったりなかったりするのが特徴。他方、落葉性のカシ(というかナラと呼ぶべきか・・・)はカリフォルニアではすべて多少ともカシワのように切れ込んだ葉をもつ。その中でもCalifornia Black Oak は、ところどころに針状の鋸歯があるので、同定が容易。
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Canyon live oak (Quercus chrysolepis)の拡大写真(ただし、これはヨセミテバレーのもの)。
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冬には雪が積もるらしい。右手前の若葉が赤い落葉広葉樹は、California Black Oak。前の写真より標高が高いのでまだ展葉の途中。
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しばらく行くと完全に針葉樹林になる。もう5月末だが、雪が残っていた。このように雲がかかると、いかにも山地針葉樹林という感じがする。
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ポンデローサマツとホワイトファー(Abies concolor)が中標高山地針葉樹林の優占種。向こうの雲の中にそびえるのはキングスキャニオンの山々。木の間隔が開いているのは山火事で焼けたせい。立ち枯れた木もある。最寄りの気象観測点(Grant Grove、標高2011m)によると、年平均気温は7.8℃、年降水量は1087mm。
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山地針葉樹林のなかでも、ジャイアントセコイア(Sequoiadendron giganteum)が生えているのはごく一部。赤い幹の木がそれ。ここはその名もGiant Forestという地名(標高1955m、年降水量1099mm、気温データなし)。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 08:16| Comment(0) | カリフォルニアの植生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月22日

蛇紋岩植生:チャパラルまたはウッドランド

キナバル山を研究している者としては、ぜひカリフォルニアの蛇紋岩植生を見てみたいと思っていました。が・・・一帯すべてが熱帯多雨林気候下にあるキナバルと違って、カリフォルニアでは降水量が場所によってずいぶん違うため、植生に一番影響を与えるのは降水量とそれに影響される山火事です。それに加えて人間活動の影響(放牧など)も無視できません。これらの影響があまりに大きいため、どこまで地質が植生に影響しているのかわかりにくいです。そんな中でも、一応蛇紋岩植生らしいものを何か所かで見ましたので紹介します。
 
北部海岸山地の東部(なのでけっこう乾燥している)、ClearlakeからLake Berryessaに抜けるBerryessa-Knoxville Road沿い蛇紋岩植生(チャパラル)です。岩が青いのはキナバルと同じです。手前の薄緑色の低木は、蛇紋岩地そして山火事跡地に特徴的に出現する針葉樹、Sargent cypress(Cupresssus sargentii、シュートの断面が3~4角形)かMcNab Cypress(C. macnabiana、シュートが平たい)だと思います。Cypressが生えた蛇紋岩地は、結局こことタマルパイス山でしか見れませんでした。
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Lake BerryessaからNapa Valleyに抜けるPope Canyon Road南側のCeder Roughsです。CederはたぶんCupressusのことだと思うのですが、トレイルがわからずCupressusのある場所まで行けませんでした。崖の裸地は川沿いのためです。突き出ている灰色っぽい木は、Ghost pine (Digger pineまたはGray pineともいう、Pinus sabiniana)です。手前の白い尾状花序をつけた低木は、なんとトチノキ属のCalifornia buckeye(Aesculus californica)です(トチノキ科、Hippocastanaceae、Buckeye Family)。さらに信じがたいことに夏に落葉するsummer deciduousだそうです。カリフォルニアの乾燥したウッドランドやチャパラルに多い普通種です。初めての土地を旅すると、それまで持っていた科や属のイメージがガラガラと音を立てて崩れていくことがしばしばあります。
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Clearlakeからセントラルバレーに抜けるState Highway 20から北に入ったBear Valleyです。上の2か所同様、北部海岸山地の東部に位置するので乾燥しています。Ceder Roughsと同じように、Ghost pineがまばらに突き出てたチャパラルとウッドランドの中間的植生です。川沿い(河原の石が蛇紋岩特有の青色であることに注意!)には結構な大木(たぶん落葉性のValley oak、Quercus lobata)が生えているので、斜面の貧弱な植生は地質だけでそうなっているのではなく、おそらく山火事のためでもあろうと推察されます。
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Bear Valleyに入る手前のState Highway 20沿い。この丘の裏側がBear Valley。人がいるあたりのこんもりした茂みは蛇紋岩チャパラルに特徴的な常緑カシLeather oak (Quercus durata)。
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Leather oak のクローズアップ。葉が激しくカップ状になっている。葉の裏の脈腋に毛の束がなく、葉のほとんどに鋸歯があるのが特徴。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 12:12| Comment(0) | カリフォルニアの植生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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