2010年10月12日

河畔林と湿地林

北カリフォルニアの海岸部では、安定した基質上に成立する極相林は針葉樹林である。極相林の優占種は、海沿いでは潮風に強いシトカトウヒ、潮風が届かない谷底ではレッドウッド、斜面上部ではダグラスファーである。ただし、川沿いや湿地沿いの樹木が定着し始めたばかりの場所では、一時的に落葉広葉樹林(陽樹林)ができる。いったん落葉広葉樹林ができて、基質(ふつうのことばで言うと地面)が安定すると、徐々に針葉樹林(陰樹林=極相林)へと置き換わっていくだろう。このような植生の移り変わりの過程を遷移(succession)という。
 
これは、レッドウッド林の中を流れる小川沿いの河畔林(Riparian forest)。黄葉しているのはBigleadf Maple。薄緑色は、ヤナギ類やハンノキ(Red alder)だろう。すぐ背後にレッドウッド林が迫っている。川べりの基質が安定すれば、レッドウッド林が進出してくるだろう。Jedediah Smith Redwoods State ParkのHowland Hill Roadにて。
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これはHumboldt湾の中に作られた人工淡水湿地(Arcata Marsh)に成立した落葉広葉樹林。下水処理施設の一環として作られた。ヤナギ類が多い。手前にはガマが生えている。ところどころにシトカトウヒやレッドウッドも生えているので、やがて(数100年後?)針葉樹林に遷移していくはずだ。
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ラベル:生物学
posted by なまはんか at 12:31| Comment(0) | カリフォルニアの植生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

海岸砂丘の植生

Eurekaとその北隣の街Arcataは、細長い砂州で外海と隔てられたHumboldt湾という潟湖(lagoon)に面している。その砂州には何重にも砂丘(dune)があり、波打ち際から奥の砂丘に向かうにつれ、徐々に植生が発達していくのが見れる。一番左が太平洋で、海から遠ざかるにつれ低木のブッシュができ始め、一番右側のHumboldt湾側には連続した森林が成立している。手前に砂の川のような部分があるが、これは海風によって移動する飛砂(moving dunes)である。川とは逆に海から内陸に、低いところから高いところへ向かって流れる。イメージ 1
 
海に近い低木の茂みに近づいてみると、Sitka spruce(シトカトウヒ)が海風によってkrumholtz状になっていた。ただし、本当に低木なのか、高木が埋まったあとの成れの果てなのかは、砂を掘ってみないとわからないだろう。
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これが一番奥の砂丘。砂丘上にはうす緑のBeach pineが生え、砂丘の背後には深緑色のSitka spruce(シトカトウヒ)が森林(Coniferous dune forest)を形成する。
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飛砂は内陸側のシトカトウヒ林へと流れ込んでいく。砂の重みで幹が折れるのか、根が窒息するのか、砂に埋もれた木は枯れていく。運良く生き残ったものが、海岸に近い砂丘上に点々と生える「低木」の正体なのかもしれない。
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 東三郎「地表変動論」(p. 223-224)によると、日本でも下北半島太平洋岸(「地表変動論」には日本海岸と書いてあるが・・・)に似たような場所があるようだ(猿ヶ森ヒバ埋没林)。ただし、1936年に飛砂防止のためにクロマツやアカマツが植栽されているらしい。
 
なお、Humboldt湾は、ドイツの博物学者Alexander von Humboldtにちなんで命名されたが、Humboldt自身がここに来たことがあるわけではないらしい。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 11:58| Comment(0) | カリフォルニアの植生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

蛇紋岩植生:森林と湿地

北緯41~42度にかけてのカリフォルニア州北端部には蛇紋岩が広く分布する。今回この地域を旅行し、湿潤気候における蛇紋岩植生を観察することができた。5月には、クリアレイク周辺(北緯38~39度)で蛇紋岩植生を見たが、気候が乾燥しているためチャパラルまたはウッドランドになっていた。https://vegetation.seesaa.net/article/a805884.html
 
これはCrescent CityからGasquetに向けて、Interstate Highway 199でSmith River沿いをさかのぼったところ。標高約300feet。渓谷に青い蛇紋岩がむき出しになっている。蛇紋岩でなければ、こういう場所の川沿いにはレッドウッドが生えるのだが、ここでは谷底までダグラスファーが優占。斜面崩壊地や法面には、ジェフリーマツが出現する。
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Gasquetを通り過ぎて3.5マイルほど行くと、蛇紋岩でできた河岸段丘に小さな湿地がある。標高約400フィート。高木はダグラスファー、ジェフリーマツのほか、互いによく似たIncense cederとPort Orford cederがあった。湿地を埋め尽くしているのは、サラセニア科の食虫植物California pitcher plant (Darlingtonia californica)。マレーシア、キナバル山の蛇紋岩地にウツボカズラが出現するのと類似の現象。
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続いて、EurekaからState Highway299で海岸山地に入ったところ。Horse Mountainという標高5000フィートほどの蛇紋岩の山がある。下の写真はその東斜面約1000フィート。Salyerという集落からFriday Ridge Roadを山頂に向けて登り始めたところ。山火事跡の蛇紋岩地にGray pineが生えていた。ほぼ北限にあたる。
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これがHorse Mountainの頂上。標高約4700feet。ジェフリーマツの疎林になっている。Incense cederも混じる。下層の匍匐低木はHuckleberry oak (Quercus vaccinifolia)。アンテナの横にはヘリパッドがある。キナバルのヘリパッド(標高3100mの蛇紋岩地で、やはり疎林になっている)を思い起こさせる光景。イメージ 4
 
同じ標高でも、蛇紋岩ではない地質ではダグラスファーが優占し、樹高もずっと高くなる。White fir(Abies concolor)も混交する。
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ジェフリーマツは、シエラネバダなど蛇紋岩以外の地質では、標高5000フィート以上の山地に出現する。しかし、北カリフォルニアの蛇紋岩地では標高200フィートまで下降し、蛇紋岩植生の指標種となっている。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 10:53| Comment(0) | カリフォルニアの植生 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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