カリフォルニアの湿潤な森林では針葉樹が圧倒的に優占するが、ウッドランドやチャパラルでは広葉樹が優占することが多い。特にカシ類=コナラ属(Quercus spp.)は大木になる種もあり、ウッドランドで優占するだけでなく針葉樹林の下層にも混交し、針葉樹とともにカリフォルニアの植生の屋台骨を作っている。カリフォルニアには19種ある。カシ類については「カリフォルニアの植生」で解説することにし、ここではその他の広葉樹について紹介する。
空中窒素固定をする種が多い(カバノキ科のAlnus, クロウメモドキ科のCeanothus, マメ科のCercocarpus, ヤマモモ科のMyrica)。バラ科にも窒素固定するものがある(Chamaebatia, Purshia)。乾燥地や山火事跡では土壌有機物が少なく窒素制限が起こりやすいのだろう。
まず、カシ以外のブナ科。Tanoak (Lithocarpus densiflorus)。マテバシイ属は世界に約300種あるが、ただこの1種が北米西海岸に産するのを例外として、すべてが東~東南アジアに分布する。最近の分子レベルの研究で、この種は他のマテバシイ属とは単系統群を作らないことがわかった(Manos et al. 2001)。そのうち別属にされるだろう。
ふつう見かけるのはせいぜいこんなもの。しかし、最大の個体は樹高44m、直径2.2mに達する。Jug Handleの段丘一段目。
続いて、Golden chinquapin (Chrysolepis chrysophylla)。これもふつう低木だが、樹高37m、直径1.2mになる。以前はシイ(Castanopsis)属とされていたが、現在ではアメリカに分布する2種は別属とされる。分子系統学的研究でもアジアに分布するシイ属とは別系統であることが示されている(Manos et al. 2001)。葉は裏が金色でシイによく似ているが、実にイガのあるところはクリに似ている。ただし、シイ属の実にはイガがあるのがふつうで、日本のシイがむしろ例外(なのでシイ属はクリガシ属とも呼ばれる)。同属のもう1種(Bush chinquapin、Chrysolepis sempervirens)は樹高3m以下の完全な低木。https://vegetation.seesaa.net/article/a4435002.html参照。
ツツジ科のマンザニタ(「広葉樹:ツツジ科参照」)と並んで、ウッドランドやチャパラルから針葉樹林の下層にまで広く分布するのが、クロウメモドキ科(Rhamanaceae)のCalifornia lilac (Ceanothus spp.)。こちらはカリフォルニアに43種ある。マンザニタがかなり均一な形質を示すのに対し、Ceanothusは、常緑のことも落葉のこともあり、対生の場合も互生の場合もあり、3行脈であったりなかったりと、節操がない。ただし、花柄が花と同じ色のため大変目立つ大きな花序をつけることが共通していて、そのためにライラックとは類縁関係はないのだが、カリフォルニア・ライラックと総称される。写真の種はシエラネバダ山麓のウッドランドに生えていたもの。
根粒で空中窒素固定をする種(Deerbush, Ceanothus integerrimus; Snowbush, C. cordulatus)があり、山火事跡や伐採跡で繁茂するという。
Acer macrophyllum (Bigleaf maple)。アラスカからカリフォルニアにかけての森林からウッドランドまでの多様な環境に生育する。最大の個体は樹高30m、直径3.4m。はい、見てのとおりカエデ科カエデ属=モミジです(カエデ科は1属のみからなる)。カリフォルニアには4種のカエデ属があるが、その中で一番普通種。アメリカ全体では14種ある。APGではカエデ科(Aceraceae)をムクロジ科(Sapindaceae)に含める。
Umbellularia californica (California laurel またはCalifornia bay)、クスノキ科。標高1600m以下の森林とウッドランドに分布。最大で樹高27m直径4mに達する。萌芽能力が高い。1属1種。オレゴン州南部まで分布し、北米西海岸でのクスノキ科の北限をなす。葉の裏が白っぽく、ちぎると激しく樟脳臭がある。照葉樹林のクスノキ科のイメージそのまま。
ミュア・ウッズで車をとめたすぐ隣にこの種の大木があった。この写真を見せて、日本の照葉樹林と言えば、ふつうは信じてしまうのではないだろうか。
Twinberry (Lonicera involucrata)。スイカズラ科(Caplifoliaceae)。2輪の花が隣り合って咲く。これはそれが実になったもの。樹高3mほどの低木。車をとめた場所からミュアウッズに行く途中。
こちらはツル性木本のLonicera hispidula。英名はPink honeysuckle。花序の下の一番上の葉が合着している。乾燥したウッドランドに生える。タマルパイスの山頂で撮影。
Poison oak (Toxicodendron diversilobum)、Anacardiaceae(ウルシ科)。チャパラルの優占種のひとつ。Rhus属を今はヌルデ属(Rhus)とウルシ属(Toxicodendron)に分ける。日本では、ヌルデ・ハゼノキ・ツタウルシがヌルデ属、ウルシ・ヤマウルシがウルシ属。
Alnus rubra Red alder。北部海岸針葉樹林の渓畔林要素。Jug Handleの川沿いで撮影。Alnus属は根粒で空中窒素を固定する。
Rhamnus pursiana 英名Cascara、クロウメモドキ科の落葉樹。チャパラルから針葉樹林まで分布。高さ10mほどになる。Jug Handleで撮影。
Rhamnus ilicifolia 英名Hollyleaf redberry。こちらは常緑の高さ5m未満の低木。ウッドランドとチャパラルに分布。Bear ValleyからLeesville Roadでセントラルバレーに降りる道沿いの一番上のウッドランドにて撮影。クリアレイク州立公園のウッドランドにもあった。
Myrica californica Pacific wax-myrtle。標高150m以下の海岸に分布する常緑樹。標高300m以上には同属の落葉樹が分布。Jug Handleにて。
Myrica属も根粒で空中窒素固定する。本種もそうかどうかは調べていない。
Mahonia (Berberis) nervosaメギ属のうち、複葉の種はヒイラギナンテン属とされる。Jug Handleにて。
Fraxinus latifolia Oregon ashカリフォルニアにはFraxinusは4種あるが、小葉柄がないのは本種だけ。敬畔林に生える。この写真もCeder Roughsの川沿いで撮った。果実は翼のあるsamara。
Heteromeles arbutifolia バラ科。カリフォルニア州からバハカリフォルニアに分布。1属1種だが、もともとアジアに分布するPhotinia属の1種として記載されたらしく、カナメモチにそっくり。ウッドランドとチャパラルに生える常緑低木。北部海岸山地の蛇紋岩上のダグラスファーが生える湿ったウッドランドで見た(State Highway 128沿い)。
これもチャパラルとウッドランドに分布するバラ科の常緑低木。Cercocarpus betuloides。英名はBirchleaf mountain-mahogany。この属は北米西部からメキシコに13種ある。花には花弁がなく地味だが、果実は細長く、白い毛が生えていて目立つ。根粒で空中窒素固定する。
こちらが果実。Bear ValleyからLeesville Roadでセントラルバレーに降りる道沿いの一番上のウッドランドにて。
Cercis occidentalis マメ科。標高1000m以下のチャパラルとウッドランドに分布する落葉低木。2~4月の展葉前に赤い花を咲かすらしい。デイゴのような感じだろう。秋には実も赤く色づくらしい。根粒菌が共生し空中窒素固定する。クリアレイク州立公園にて。
Garrya elliptica Coastal silk tassel (ガリア科、Garryaceae) 狭義のガリア科は1属のみからなり、対生の常緑低木で雌雄異株。14種が北米西部、中米、西インド諸島(the Carribean)に分布。カリフォルニアには6種ある。本種は葉の裏に綿毛があり、縁が波打つのが特徴。雄花も雌花も尾状花序(catkin)で、写真ではどちらかはっきりしない。広義(APGなど)には、東アジアに分布するアオキ属(Aucuba、ミズキ科またはアオキ科)を含めることもあるらしい。対生の常緑低木というのは共通だが、とても同じ科とは思えない。Jug Handleの海岸にて。
Philadelphus lewisii 英名はWild mock-orange。アジサイ科(Hydrangeaceae)もしくはバイカウツギ科(Philadelphiaceae)バイカウツギ属。樹高3mほどの落葉低木。森林とウッドランドに分布。クリアレイク州立公園のウッドランドにて。写真ではわかりにくが、葉は3行脈で鋸歯はあったりなかったり、花弁は4枚でおしべが黄色いのがきれい。
Populus sp. 英名はcotton woodまたはaspen。カリフォルニアには4種ある。最大で樹高48m、直径2.6mになる。渓畔に多い。写真はクリアレイク湖畔のもの、cottonwoodの名のとおり種子に白い毛があり、結実時にはこのように樹冠が白く輝く。
Bear Valleyの道ばたの低木。針葉樹のようなシュート。Tamarix sp. ギョリュウ科(Tamaricaceae)。ユーラシア~アフリカ原産の外来種。
ラベル:生物学