キナバル山を研究している者としては、ぜひカリフォルニアの蛇紋岩植生を見てみたいと思っていました。が・・・一帯すべてが熱帯多雨林気候下にあるキナバルと違って、カリフォルニアでは降水量が場所によってずいぶん違うため、植生に一番影響を与えるのは降水量とそれに影響される山火事です。それに加えて人間活動の影響(放牧など)も無視できません。これらの影響があまりに大きいため、どこまで地質が植生に影響しているのかわかりにくいです。そんな中でも、一応蛇紋岩植生らしいものを何か所かで見ましたので紹介します。
北部海岸山地の東部(なのでけっこう乾燥している)、ClearlakeからLake Berryessaに抜けるBerryessa-Knoxville Road沿い蛇紋岩植生(チャパラル)です。岩が青いのはキナバルと同じです。手前の薄緑色の低木は、蛇紋岩地そして山火事跡地に特徴的に出現する針葉樹、Sargent cypress(Cupresssus sargentii、シュートの断面が3~4角形)かMcNab Cypress(C. macnabiana、シュートが平たい)だと思います。Cypressが生えた蛇紋岩地は、結局こことタマルパイス山でしか見れませんでした。

Lake BerryessaからNapa Valleyに抜けるPope Canyon Road南側のCeder Roughsです。CederはたぶんCupressusのことだと思うのですが、トレイルがわからずCupressusのある場所まで行けませんでした。崖の裸地は川沿いのためです。突き出ている灰色っぽい木は、Ghost pine (Digger pineまたはGray pineともいう、Pinus sabiniana)です。手前の白い尾状花序をつけた低木は、なんとトチノキ属のCalifornia buckeye(Aesculus californica)です(トチノキ科、Hippocastanaceae、Buckeye Family)。さらに信じがたいことに夏に落葉するsummer deciduousだそうです。カリフォルニアの乾燥したウッドランドやチャパラルに多い普通種です。初めての土地を旅すると、それまで持っていた科や属のイメージがガラガラと音を立てて崩れていくことがしばしばあります。

Clearlakeからセントラルバレーに抜けるState Highway 20から北に入ったBear Valleyです。上の2か所同様、北部海岸山地の東部に位置するので乾燥しています。Ceder Roughsと同じように、Ghost pineがまばらに突き出てたチャパラルとウッドランドの中間的植生です。川沿い(河原の石が蛇紋岩特有の青色であることに注意!)には結構な大木(たぶん落葉性のValley oak、Quercus lobata)が生えているので、斜面の貧弱な植生は地質だけでそうなっているのではなく、おそらく山火事のためでもあろうと推察されます。

Bear Valleyに入る手前のState Highway 20沿い。この丘の裏側がBear Valley。人がいるあたりのこんもりした茂みは蛇紋岩チャパラルに特徴的な常緑カシLeather oak (Quercus durata)。

Leather oak のクローズアップ。葉が激しくカップ状になっている。葉の裏の脈腋に毛の束がなく、葉のほとんどに鋸歯があるのが特徴。

ラベル:生物学
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