2014年10月31日

照葉樹と硬葉樹

日本の生物学の教科書では、常緑広葉樹林を、熱帯多雨林・亜熱帯多雨林・照葉樹林・硬葉樹林と分けて分類している。熱帯多雨林・亜熱帯多雨林はそれぞれ、熱帯・亜熱帯の湿潤地域に成立する常緑広葉樹林である。照葉樹林・硬葉樹林は、いずれも温帯湿潤地域に成立するが、照葉樹林は夏雨型の気候にあり、硬葉樹林は冬雨型の気候にある。亜熱帯多雨林は、亜熱帯を温帯の一部と考えれば照葉樹林に含まれることになり、実際日本の亜熱帯林(沖縄・奄美)は照葉樹林とされることも多い。「照葉樹」とは日本だけで使われている言葉で、もともとはlaurel forestの翻訳である。元のlaurel forestは、カナリー諸島の常緑広葉樹林などを言い表す言葉であるが、カナリー諸島の常緑広葉樹林は実は地中海性気候にある。なので、照葉樹林と硬葉樹林ははっきり区別できるものではない。熱帯林が薄くて大きい葉を持ち、硬葉樹林が硬くて(したがって厚くて)小さい葉を持つのに対し、照葉樹林は中型で光沢のある葉を持つのが特徴とされる。けれども、硬葉樹だって光沢があり、照葉樹だって硬い葉を持つので、違うのは大きさだけということになる。で、その葉の大きさも実のところ、大きい葉の硬葉樹もあり、小さい葉の照葉樹もあるので、あくまで程度の違いにすぎない。
 
そういうわけで、照葉樹と硬葉樹は連続しているのだが、硬葉樹は夏の乾燥に対する適応といわれるのに、夏の乾燥がない照葉樹がなぜ硬葉樹に似た葉を持つのであろうか?これにはっきり答えた研究はまだないようだ。硬葉樹が夏の乾燥に対する適応というのも、実は証明された事実ではなくて、そのほかに栄養塩の保存や植食者に対する防衛という説もある。
 
はっきりした寒い冬のある気候に成立する照葉樹は、冬の寒さへの適応という考えもあるかもしれない。しかし、寒い冬も夏の乾燥もない熱帯山地林も照葉樹林とよく似ているので、それは無理だと思う。そうすると、植物の生育を多少とも制限する要因(硬葉樹林の夏の乾燥、照葉樹林の冬の低温、熱帯山地林の一年中の低温)があると、照葉~硬葉シンドロームが発達すると考えたほうがよいのでは。そうだとすると、照葉~硬葉シンドロームは特定の気候条件では説明できず、栄養塩の保存や植食者に対する防衛という説が正しいのかもしれない。その証拠に、照葉樹林にも硬葉樹林にも、照葉~硬葉を持たない種が存在する。これらの薄くて大きい葉を持つ種は、葉の寿命が短い先駆種的な種である。たとえば、カリフォルニアの硬葉樹林には夏季落葉性のトチノキがある(https://vegetation.seesaa.net/article/a4463137.html)。照葉~硬葉を持つ種は、葉の寿命の長い極相種であり、葉を長持ちさせるために植食者に食われにくい照葉~硬葉を持つのではないだろうか。
 
 
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 22:49| 覚え書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする