イングランドの南東部、ロンドン平野(London Basin)を取り囲むように分布する未固結の石灰岩(チョーク)からなる丘陵地帯(チルターン、南北ダウンなど)を、地形学・生態学的にはダウンランドといい、地質学的にはチョークランドという。
チルターンやノースダウンでは、チョークランドの地形は傾斜台地(Cuesta)となっていて、台地上は緩やかな傾斜の平坦面となっている。緩やかな傾斜といっても、ロンドン盆地に向かって50kmぐらいかけて徐々に下っていくという意味なので、台地上に立って周囲を見渡す程度の数100mのスケールではほぼ真っ平らである。そういう平らな台地上にはチョークからできたとは思えない酸性の土壌があり、そのもとになっている堆積物はしばしばClay-with-flintsと呼ばれる。
下はチルターン最高点のあるWendover Woodsの台地上平坦面。
![イメージ 1](https://vegetation.up.seesaa.net/image/_res_blog-2f-9b_aibaboston_folder_499176_23_15063623_img_0.jpg)
調べてみると、Clay-with-flintsの起源はいまだによくわかっていないらしい。現代地質学の父ライエルの母国イギリスの首都のすぐ近くの地質だというのに驚きである。Clay-with-flintsは狭義にはチョークのすぐ上にあるフリントに富む地質を指し、さらにその上にあるフリントの含量が少ない最表層の堆積物はPlateau Driftと呼ぶ。なので、チョークランドの台地上の土壌の基質は厳密にはPlateau Driftである。
これまでの研究によると、Plateau Driftは極めて多様な起源・年代の堆積物(チョーク、レスなど)を含み、一番古いものではPaleocene(5700~6500万年前)のReading Bedsという淡水湿地起源の堆積物がある。 ということは、チョークランドの台地上の地形はこのころから平坦なままで、少なくとも一部の堆積物は横方向に移動することなく台地上にとどまり続けたということになる(Jones, D.K.C. 1999, Geological Society pf London, Special Publication)。
だからといって、チョークランドの台地上の土壌の年齢が5000万年以上たっていると言えるのか、というとそう簡単な話ではない。5000万年たてば、台地は全体的に浸食されている。5000万年前から残っているのはあくまで土壌のごく一部であり、土壌の大部分は下のチョークや風によって運ばれたレスなどの新たに供給された母材から形成されたことになる。
Jennyの土壌生成因子のひとつに時間がある。土壌の性質が生成開始からの時間によって影響されるのは明らかだが、浸食のスピードが土壌生成のスピードを上回ると土壌は生成されず母材のままになるだろう。土壌生成開始から同じ1万年がたったとしても、土壌侵食の速度が速い急斜面の土壌は、土壌侵食速度が遅い平坦面の土壌に比べて相対的に若くなるはずである。なので、時間の影響は浸食のスピードをさしひいて考える必要があり、土壌基質の絶対的な年代にはあまり意味はないのだろう。
ラベル:その他自然科学
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