2012年12月16日

キュー王立植物園植物標本館

仕事場のキュー王立植物園植物標本館(Herbarium, Royal Botanic Gardens, Kew)について。
 
キュー王立植物園はロンドンの西の郊外にある。行政上は、大ロンドン市(Greater London)の一部をなすリッチモンド・ロンドン特別区(London Borough of Richmond)に属する。ただし、郵便の住所表示はKew, Richmond, Surreyであり、ロンドンの南西にあるカウンティ(日本の都道府県のようなもの)サリーに属することになっている。リッチモンドはかつてサリーに含まれていて、ロンドンの市域の拡大に伴い大ロンドン市に編入されたという歴史的経緯がある。行政区分と郵便の住所が一致しないというのは日本ではありえないことで、日本人には理解しがたいが、イギリス人自身にとっても混乱のもとであるらしい。
 
ロンドンの地下鉄の料金はゾーン制で、ロンドン中心部がゾーン1、郊外に行くに従い、ゾーンの番号が大きくなっていく。最寄のキューガーデンズ駅はテムズ川の南、ゾーン3と4の境界に位置する。ヒースロー空港はさらに西のゾーン6にある。イメージ 7
地下鉄の駅名もそうだが、植物園の英語名はなぜか複数形。広大な敷地が複数の庭園からなるとみなしているということなのか?
 
キュー植物園の敷地の片隅にある赤レンガの建物が植物標本館。植物園は一般に公開(有料)されているが、標本館は原則研究利用のみ。ただし、事前予約すれば一般の人も見学できるようで、館内をガイドされる団体客をたまに見る。Admissions to visitors by appointment onlyと看板に書かれている。
イメージ 1
 
5つの棟(Wing)からなり、それぞれの棟は3~4階あるが、古い3つの棟は中央部が吹き抜けの独特の建物。棚と棚の間のスペースはbayと呼ばれ、作業用の机が置かれている。1つおきに机の下も棚になっているbayと普通の机が置かれたbayがあり、後者は研究者の個人作業スペースとして割り振られる。常勤の研究者は別に個室を持っていることが多いが、外来研究者はこのbayが個室代わりになる。
イメージ 3
 
植物標本は科→属→産地(大区分)→種→産地(小区分)という順に階層化されて棚に収納されている。赤いのはタイプ標本のフォルダー。
イメージ 2
 
これが地域の大区分を示した地図。キナバル山のあるのは6c('Malay Islands')で、マレシア区系のうち、マレー半島・フィリピン・ニューギニアを除いた部分。ボルネオ・スマトラ・ジャワ・スラウェシ・小スンダ列島・マルク諸島などが含まれる。ちなみに日本は中国と一緒になっている。いわゆる日華区系ですね。
イメージ 4
 
これはキナバル産のシャクナゲのタイプ標本(Rhododendron rugosum Low ex Hook. f.)。キナバル山に最初に登頂したHugh Lowが採集したもの。原記載論文に使われた原図がフォルダーに同封されていた。ツツジ科→ツツジ属→6c→Rhododendron rugosa種→ボルネオ・マレーシアサバ州というふうに階層を下っていく。最下層のフォルダーはサバ州になっていることが多い。その種のサバ州産の標本が多い場合は複数のフォルダーに分割される。逆に少ない場合はボルネオ、6c地域全体、あるいは6地域全体でまとめられてひとつのフォルダーに入っていることもある。
イメージ 6
 
一番上の階層は科。なので、科の見当がつかないと標本を探しようがない。近年になって分子生物学的手法の発達で科の範囲が大きく変わった場合がある。現在その新しい科の体系(APG体系)にあわせて、標本を移動させている最中。こちらが科の新旧対照表。たとえば上から2つめ、カエデ科(Aceraceae)はAPG体系ではムクロジ科(Sapindaceae)に含まれる。新しい科番号405というのがあるように、被子植物だけでも植物の科は400以上もあるので科の見当をつけるのは大変。
イメージ 8
 
標本館内は原則飲食禁止。唯一認められているのがティールーム。午前午後のお茶の時間にお茶を飲むほか、昼食持参の人はここで食事をする。標本相手の仕事の多くは個人作業なので、ティールームで顔をあわせて話をするのは大事な時間になっている。
イメージ 5
200人以上の科学者が雇用され、退職後も研究を続ける植物分類学者なども含めると、研究者だけでも324人に達する巨大な組織である。働いている人は男性より女性の方が多いのではないかと思う。研究者に限っても女性と男性の人数は拮抗しているだろう。ライデンやハーバードの標本館にくらべて女性の比率が高い。
ラベル:ヨーロッパ
posted by なまはんか at 07:32| ロンドン生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする