イギリスのチョークでできた丘陵地帯を総称してダウンランドという。ロンドンの北のチルターン丘陵、南の南北ダウンなどである。チョークは未固結の石灰岩であり、その上に形成される土壌はふつうアルカリ性になる。したがって酸性土壌を好むハリエニシダやヘザーは基本的にはダウンランドには生育しない。
ただし、チョークの上にたまたま別の堆積物が乗っていると、そこには酸性土壌が形成されハリエニシダなどが生育できる。
たとえばチルターンでは丘陵上の平坦面にclay-with-flintと呼ばれる堆積物があり(https://vegetation.seesaa.net/article/a14195536.html)、そこにはハリエニシダが生育していることがある。チルターンのチョーク上の森林土壌のpHは7~8であるのに対し、clay-with-flint上の土壌pHは4~5である(Watt 1934)。clay-with-flintがある場所は平らで水はけが悪く、歩道はぬかるんでいる。

冬になるとブナやサンザシは黄葉・落葉するが、ハリエニシダは常緑なのでよく目立つ。上の写真と同じ、Ivinghoe Beaconの南にあるSteps Hill(標高235m)にて。下の平野(標高125m)に水車が見える。

サウスダウンのセブンシスターズ付近には、風成土のレス(loess)が局所的に存在する。手前の崖で黄色の部分がレス。ヨーロッパのレスは氷河から流れ出る川によって供給された堆積物が、冬になって川の水がなくなった時に風に運ばれて二次的に堆積したものだという(Proceedings of the Geologists' Association
Volume 89, Issue 1, 1978, Pages 57–65)。中国の黄砂もレスだが、黄砂の場合は砂漠の砂が供給源。

そこへ行ってみると常緑のハリエニシダが生えていた。黄色い花をつけている個体もあった。向こうに見えるセブンシスターズの上にはハリエニシダはないので、低木林は落葉している。
ノースダウンのドーバー・ホワイトクリフでも、Langdon Holeという窪地には、ハリエニシダが生えていた。たぶんそこにはレスがあるのだろう。

ラベル:ヨーロッパ
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