2012年10月19日

ノース・ダウンとダウン・ハウス

ロンドンの南にあり、東西に伸びるチョーク(chalk、未固結の石灰岩、白亜)の丘陵地帯をノース・ダウン(North Down)という。ダウンというのは古い英語で丘を意味する(https://vegetation.seesaa.net/article/a13639423.html)。ロンドンの北にあるチルターン丘陵と同様、ロンドン市民が週末にハイキング・サイクリングなどを楽しむ場所となっている。
 
そのような場所のひとつがBox Hill。標高200mほどの丘である。西側はふもとを流れる川(River Mole)に浸食されチョークの崖(the White)となっている。サイクリングの場所として人気があり、オリンピックの自転車競技会場となった。
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ノース・ダウンの南の堆積岩地帯(Weald)にあるLieth HillからBox Hillを見たところ。写真中央付近にthe Whiteが見える。Box Hillの向こうにはロンドンの高層建築が見える。
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Box Hillの名は自生するツゲの木(box tree)に由来する。イギリスに3か所しかないツゲの自生地(https://vegetation.seesaa.net/article/a13649067.html)のひとつだが、ツゲの生えている場所はごくわずかで個体数は多くない。岡の上の平坦部にはブナの大木の林がある。イメージ 3
 
遊歩道を歩くとチョークの中からフリント(flint)と呼ばれる石が路面に露出しているのがわかる。フリントはチョークが形成される過程で珪素分が集まってできる石で、非常に硬い。日本語にすると火打石になるらしい。チャートの一種だそうな。イメージ 9
 
フリントを拡大してみるとこんな感じ。真っ白ではなくて黒い部分もある。なんとなく牡蠣の貝殻に似ている。
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ダーウィンが死ぬまでの40年間を暮らした家もノース・ダウンにある。その家のある村の名前はDowneであり、これはまさにノース・ダウンのダウンに由来する。そもそもダーウィンが住み着いたとき(1842年)には村の名はDownであったが、アイルランドにある同名の村と区別するために1850年代にDowneとなったという。ダーウィンは自分の家をDown Houseと呼び、村の最初の名前をそのまま使い続けた。下がDown Houseの写真だが、いかにも「Down Houseな」特徴に気づきますか?
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答えは家の周りの塀でした。塀の下のほうにはレンガでなくて石が使われているが、これはフリント。ノース・ダウンでもチルターンでも、家の壁にもよく使われている。Down House本体は白く塗られているのでフリントが使われているかどうかはわからなかった。
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Down Houseは村の中心からやや離れていて、周囲には畑が広がる。その畑の土の中にもフリントがゴロゴロしている。
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Downeの村で見かけた建物。レンガとフリントの使用割合はいろいろ。一つ目はレンガのほうが多い例。
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その一軒おいて隣はフリントのほうが多い例。これは昔の学校で、今はvillage hallとして使われている。
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その向かいにはほぼフリントだけでできた教会St Mary the Virgin Churchがある。庭にはダーウィンの妻エマの墓がある。ダーウィンの墓はウェストミンスター寺院にある。
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ブリテン島の地質は西や北に行くほど年代が古くなる。南北ダウンやチルターンの石灰岩は白亜紀にできた未固結のチョークであり、建築材にはなりえない。イングランド南西部のコッツウォルズ丘陵まで行くとジュラ紀の硬い石灰岩になり、建築材として使われる(https://vegetation.seesaa.net/article/a14305534.html)。これがコッツウォルズの有名な「蜂蜜色の石」であり、屋根まで板状の石灰岩で葺いてある。白亜紀(約1億4300万年前~約6500万年前)とジュラ紀(約2億1200万年前~約1億4300万年前)で石灰岩がそんなに違うというのは不思議な気がするが、ジュラ紀(大雑把に言って2億年前)のほうが白亜紀(1億年前)の2倍近い昔だと考えればわかる気もする。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 03:59| イギリスの自然 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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