キリマンジャロの200kmほど西にンゴロンゴロ・クレーター(Ngorongoro Crater)という場所がある。クレーターと呼ばれているが、隕石や小惑星が落下した跡(impact crater)ではなく、火山の中央部が陥没してできたカルデラ(caldera, volcanic crater)である。乾燥しているため侵食が進まず、カルデラ壁には切れ目がない。キリマンジャロと同様、降水量は東方のインド洋から供給される水蒸気に依存する。そのためインド洋からの東風のあたるカルデラ外輪山の南~東斜面は降水量が多いが、カルデラの内部や外輪山の北~西斜面は乾燥する。この降水量条件に対応した多様な生態系が見られる。
キリマンジャロとンゴロンゴロ・クレーターの間の標高1000m程度の平原地帯には乾燥した草原~ウッドランドが広がる。ウッドランドにはバオバブが生えている。


タンザニア北部の観光拠点の町アルーシャからは、ンゴロンゴロへは南斜面から入る。外輪山の外側南斜面標高1500m付近にゲートがあり、そこで手続きをしてから外輪山の上に向かう。ゲートの周辺には山地林が広がる。

外輪山の上には放牧地と山地林がモザイク状に分布する。観光用の宿泊施設も散在する。写真はゲートからクレーターの縁に最初に到達した三叉路からクレーターの外側南斜面を見たところ。標高2200m。はるか下方に茶色く見えるのは外輪山南麓の耕作地帯。

南側外輪山は湿っているので、樹木にはコケがつき雲霧林の様相を呈する。

東側外輪山の頂上付近はやや乾燥したウッドランドとなっていた。優占するのはマメ科のAcacia属。標高2300m付近。

外輪山の西側に向かうと、rain shadowとなるため乾燥が著しくなる。外輪山の頂上付近(標高2400m)からカルデラ外側の西側斜面を見たところ。Mount Makarotが見える。

2200mから西側外輪山の内側斜面を見たところ。やはり乾燥しているがサボテン状のEuphorbiaが生えているのが特徴的。

カルデラの内部に下りると一面に草原が広がっている。ヌーやシマウマの群れが砂埃をあげて移動しているのが見える。カルデラ底の標高は約1700m。

湿った外輪山斜面から供給される水分により川が流れている。川沿いにだけ樹木が生えている。

川はカルデラ内の一番低いところに集まり塩湖となる(Lake Magadi)。乾季なので水がかなり引いている。湖畔は塩分濃度が高すぎて植物は生えられないようだ。

外輪山に近くて地下水位の高い場所には森林~ウッドランドが発達し、ゾウの住処となる。

森林を背後に草原でくつろぐライオンのペア。さらに背後には東側外輪山の内側斜面が見える。東側で湿っているので多少は樹木が生えている。

森林~ウッドランドの中には部分的にトゲがある低木(これもマメ科のAcacia属)が密集している場所もあった。枝が白く見えているのはトゲが日光を反射しているため。教科書で言うところの「トゲ低木林(thorny shrubland?
)」というのはこういうのをさすのだろうか?

アフリカのサバンナ・草原というと暑いイメージがあるが、標高1700mなので朝は肌寒いぐらい。同じぐらいの標高 (1624m) のナイロビの年平均気温は19℃で、屋久島とほぼ同じ。乾燥は降水量が少ないためであり、サバンナが成立するためには必ずしも気温が高い必要はない。ンゴロンゴロ・クレーターの100km北西には有名なセレンゲティ国立公園があるが、その標高も1300~1660mであり、ンゴロンゴロより少し低いだけである(http://www.americanscientist.org/issues/issue.aspx?id=838&y=0&no=&content=true&page=4&css=print)。日本の動物園のライオンやゾウは冬は寒くて大変だろうとなんとなく思っていたが、意外に平気なのかもしれない。
ラベル:アフリカ
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