ムーアランド(Moorland)というのもなじみのない言葉である。というか、おそらくヨーロッパ人にとってもそうではないか?辞書によるとMoorlandもHeathとほとんど同義である。キリマンジャロでは、ヒース帯の上部にあって、巨大ロゼット植物(giant rosette plants、ロベリアとデンドロセネシオ)が生育している地帯をムーアランドと呼んでいる。ヒース帯の上部になるとEricaが密生しなくなるので、耐陰性がない巨大ロゼット植物が生育できるようになるのだろう。ただし、巨大ロゼット植物の分布は谷地形に限定されており、ヒース帯の上部であっても尾根の上には見られない。南斜面の尾根上ではErica属が優占する低木林がHelichrysum属が優占する低木林に明瞭に移り変わる。後者はヘザーとは見た目がかなり異なり、ヒースとはもはや呼び難いので、巨大ロゼット植物がなくてもムーアランドということになるだろう。
手前の葉が細長くてボール状の植物がLoberia、奥にある葉が幅広い植物がDendrosenecio。

デンドロセネシオの群生地として有名なBarranco Valley(標高4000m)。デンドロセネシオは地下水に依存していると思われる。

giant rosette plantsは、世界各地の熱帯高山で独立に進化したと思われる。ハワイにはキク科のArgyroxiphium(silversword=銀剣草)、ヒマラヤにはタデ科のセイタカダイオウ、南米にはキク科のEspeletiaとブロメリア科のPuya、ニューギニアに木性シダ(Cyathea)、カナリー諸島にEchium(ムラサキ科)などがある。
南斜面Mwekaルートの標高3900m付近。一面に灰白色のHelichrysum属が生えている。

しばらく下ると緑色をしたEricaの優占するヒースになる。下方に見えるのはHigh Camp (Millenium Camp, 3800m)。

ラベル:生物学