スコットランドの1000m級の山々が気候的に森林限界を超えていることは明らか(https://vegetation.seesaa.net/article/a13627730.html)だが、森林限界の自然な姿が残っている場所は全くないと言ってもよい。なだらかな地形のため、ほとんどすべての山々が放牧の影響を受けている。そのような中で、スコットランドで一番高い森林限界として知られている場所がケアンゴーム山地(Cairngorm Mountains)にあるCreag Fhiaclachという山である。ケアンゴーム山地の最高峰Ben Macdui(1309m)の北西10kmほどにある標高約700mの尾根である。
標高300mのふもとからCreag Fhiaclachを見たところ。

山火事の影響か、山のふもとはヒースにヨーロッパアカマツが点在するサバンナのような景観になっている。一面に紫色なのはヘザー(heather)が咲いているため。

しばらく斜面を登り、標高400m程度になると立派な亜高山帯林になる。ほぼヨーロッパアカマツの純林。まれにナナカマドとカバノキが混じる。下層はヒースと同様にヘザーが密生する。

標高約500m。高木層がややまばらになり、下層にセイヨウネズ(juniper)が目立つ。ヨーロッパアカマツには、名前のとおり枝が赤い個体もある。

森林限界は標高約600m。ただ、それより上のヒースにも樹高1m未満のヨーロッパアカマツが点在する。

標高700m程度まで上がって森林限界を見下ろしたところ。森林限界より上にも小さなマツが点在するのがわかる。

森林限界より上に点在するヨーロッパアカマツは、風の弱い谷間近くでは比較的きれいな円錐形をしている。

風当たりの強い尾根の上では主幹が枯れて横に広がった樹形(Krummholz)となる。

スゲが風になびいているのがわかるだろうか。かなりの風である。

これが一番尾根の上付近(約700m)。ほとんど匍匐している。これより上にはもう樹木はないので、ここが樹木限界ということになる。

ヨーロッパアカマツのほか、セイヨウネズも森林限界より上まで生育する。ただ、こちらは森林内でも匍匐樹形となるがふつうなので、これが森林限界ならではの姿というわけではない。

アメリカ北東部のワシントン山の森林限界(https://vegetation.seesaa.net/article/a4134239.html、https://vegetation.seesaa.net/article/a4567835.html)にくらべると、ワシントン山ではクルムホルツが密生して森林限界と樹木限界が一致していた。スコットランドでは、森林限界の上にクルムホルツが点在し、森林限界(600m)の約100m上に樹木限界(700m)がある。スコットランドでは森林(亜高山帯)から草原(高山帯)への変化が、森林限界→樹木限界と段階的に起こる。過去の放牧や伐採の影響で、森林限界が樹木限界より下にあるのだろう。森林限界が不連続にヒースに移り変わるところはキリマンジャロと似ている(https://vegetation.seesaa.net/article/a14136051.html)。
ラベル:生物学
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