ブリテン島南東部の地質は、基本的には古生代白亜紀後期に形成された未固結の石灰岩(白亜、chalk=チョーク)である。ただし、ロンドン平野(テムズ川流域)とハンプシャー平野(サウサンプトン・ポーツマス・ブライトン周辺)は向斜(syncline、地層が褶曲して谷状になること)により沈降して凹地になり、そこに新生代第三紀の未固結の堆積物がたまっている。したがって、ロンドン周辺で石灰岩が地表に出ているのは、ロンドンの北側ではテムズ川上流部からイーストアングリア(テムズ川河口の北東の半島部)にかけて、ロンドンの南側ではポーツマスより東のブリテン島南海岸である。
ロンドン北側の石灰岩地帯は、南西⇔北東方向に帯状に広がっており、そのうちロンドンの北西(ちょうどロンドンとオックスフォードの中間あたり)に位置するのがチルターン丘陵である。下の写真はチルターン丘陵Tringにおけるチョーク採掘抗(chalk pit)のようす。手前が丘陵の石灰岩草原で、侵入した低木のサンザシなどが生えている。その丘陵のふもとにチョーク採掘抗があった。左側は放棄された採掘穴で、水がたまって池になっている。

ロンドンの南側の石灰岩地帯は東西方向に帯状に続いていて、ロンドンに近いNorth Downと南海岸沿いのSouth Downという2列に分かれている。North DownとSouth Downの間には堆積岩地帯のWealdがある。Wealdはロンドン南部の石灰岩地帯が背斜(anticline、地層が褶曲して尾根状になること)によりドーム状に隆起した後に、表層の石灰岩が侵食により失われ、石灰岩の下の(=より古い:ジュラ紀~白亜紀前期)堆積岩が露出してできた部分である。科学史上最初(1825年)に命名された恐竜であり、発見者が親指の骨を鼻の上の角として間違えたことで有名なIguanodonの最初の化石が見つかったのが、このWealdの地層である。以下が南北DownとWealdの地質の成り立ちの解説。North Downのすぐ南のWealdに位置するLeith Hill(ブリテン島南東部の最高点, 294m)の展望台の展示より。

ロンドンのすぐ南にあるNorth Downを東にたどるとドーバーに出る。海岸には有名な石灰岩の崖ホワイト・クリフがある(https://vegetation.seesaa.net/article/a14228881.html)。ロンドン南部のNorth Downには、ツゲの自生地Box Hillやダーウィンが住んでいた村Downeがある。
一方、South Downは基本的には南海岸沿いに続いているのだが、ブライトンより西側は沈降してハンプシャー平野になっているし、ドーバーに近いほうは石灰岩の下の堆積岩が露出したWeald地帯になるため、石灰岩が海岸の崖を作っている範囲は意外に狭い。South Downの崖の代表がセブン・シスターズである(https://vegetation.seesaa.net/article/a14265694.html)。
Downというのは、古い英語の「丘」に由来しており、up-downのdownではない。石灰岩の丘は緩やかな起伏を持ち、放牧地になることが多い。ダーウィンが住んでいた村Downeの名はDownに由来する(https://vegetation.seesaa.net/article/a14182595.html)。
一方、Wealdは、古い英語で森林を意味する。こちらも地形は決して急ではないが、2列の石灰岩の丘陵(南北のDowns)にはさまれた間にあって、鉄道が通るまでは交通の便が悪いため開発が遅れ、森に覆われていたらしい(R. Fortey, The hidden landscape 1993)。ロンドンからの国内線が多く就航しているガトウィック空港やキュー植物園の分園Wakehurst PlaceがあるのがWealdである。Wealdの最高地点Leith Hillからガトウィック空港がかろうじて見えた。
ラベル:生物学
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