イギリス最高峰のベンネビス(Ben Nevis)に登ってきた。頂上の標高は1344mしかないが、登山口の標高が20m程度なので、高低差は1300m以上ある。道標はほとんどないが、登山道はしっかりしていて、天気がよければ道に迷うことはない。フォートウィリアムという町のすぐ背後にあり、古くからの放牧の影響で原生的な植生はまったく残っていない。
フォートウィリアムからだと手前の丘(標高260mのCow Hill)にさえぎられ、ベンネビスは見えない。フォートウィリアムと湾を挟んだ対岸のCorpachという町からだとよく見える。台地状の山頂部に黒く突き出ているのが頂上。右手前の横に伸びた丘がCow Hill。そのふもとにフォートウィリアムがある。西北西から見たところ。

フォートウィリアムに近づき北西から山すそを見たところ。水力発電のパイプが見える。その背後にベンネビスの北壁の崖に通じる巨大なU字谷の入り口が見える。

標高400m程度までは、谷沿いの急斜面(おそらく家畜が近づけない)にカバノキ(Betula pubescens, 英名downy birch)が出現する。下はベンネビス西麓の谷グレンネビス(Glen Nevis)の東斜面の写真。イギリスにはモミ属もトウヒ属もカラマツ属も自生しない。原生状態ではヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris、英名Scots pine)が生えるはず。なお、スコットランドでは、ベンは山、グレンは谷を意味するので、ベンネビスはネビス山、グレンネビスはネビス谷という意味。

ベンネビスの登山道の入口(標高20m)にはビジターセンターがある。ビジターセンターから見ると山肌に樹木はない。

登山口付近は牧場になっている。

牧場を通り抜けてしばらく行くと、ワラビの藪になり、やがて森林が出てくる。林縁部にはヨーロッパアカマツが生えている。植林したのか自然に生えたのか判然としない。土壌の発達した場所での、牧場草原→ワラビ草原→森林という遷移系列が空間的に配列しているのでしょうね。

しばらく行くとカバノキのほぼ純林となる。たまにナナカマドやヤナギが混じる。

下の写真は岩の隙間からナナカマド(Sorbus aucuparia, 英名RowanまたはMountain ash)が生えているところ。動物が届かないところならばよく育つので、気候的な森林限界はずっと上のはず。

標高400mをすぎると樹木はなくなり、ヘザーの藪(いわゆるヒース)になる。まだ咲き始め。もう少したつと、一面紫色になるだろう。土壌が発達しない急斜面ではワラビは生えられず、遷移系列は草原→ヒース→森林となるのかなあ?

ヘザーのあった急斜面を登りきると、草原になる。緩斜面なので放牧の影響が大きいだろう。標高は500m程度。はるか上方で登山道が中央の沢を横断するのが見える。現在の登山道はそこへ向かって沢沿いを進むのではなく、いったん左側の台地に上がる。

台地上の標高570mには湖(Lochan Meall an t-Suidhe) がある。その湖のそばを通ってから、先ほどの沢へ向かってまた斜めに上っていく。来た道を振り返ったところ。

沢の渡渉点の手前まで来て下を見たところ。Zを左右逆にしたように見える登山道が湖のある台地に上がっていくのが見える。はるか下に見える水面は湖ではなく、フォートウィリアムの面している湾。

渡渉してから上を見たところ。これより上は草原がパッチ状に分布。標高800m程度。

標高1000mぐらいまであがって、頂上の台地を見上げたところ。一面ガレ場で、ところどころ植生のパッチが点在。

頂上部の台地に上がってしばらくすると、はじめて残雪が出現。もう植物は見当たらない。標高1200m程度から来た道を振り返ったところ。

台地をしばらく行くと北壁の絶壁に近づいているのに気づく。登ってきた道を振り返ったところ。標高はすでに1300m。

山頂に到着。標高1344m。

北壁の崖を覗き込むと残雪が見える。山頂から西向き。

反対側(山頂の東)には赤い地肌が印象的な山が見える。

ベンネビスはスコットランドの北部、北緯57度に位置する。夜は10時半までうす明るかった(北緯51~52度のロンドンだと9時まで)。ベンネビスより北東にあり、森林がよく残っているCairngorm山地(最高峰は1309m)での研究によると、気候的な森林限界の高さは500~800m程度だと思われる(Watt & Jones 1918, J. Ecol. 36: 283-301)。
私は登りに3時間、下りに2時間半かかったが、下りで膝をいためてしまった。
ラベル:登山
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