シーサンバンナ州の一番南西部、ミャンマーとの国境地帯に位置するMengsongの熱帯山地林を見に行った。斜面下部には熱帯山地多雨林が、尾根には熱帯山地常緑広葉樹林が分布する。熱帯山地多雨林は種多様性が高く、林冠は35m以上あり、優占種がはっきりしない。熱帯山地常緑広葉樹林は種多様性が低く、林冠は30m以下、優占種はブナ科のCastanopsisとLithocarpus、もしくはツバキ科のSchima wallichiiである。この2種類の熱帯山地林はもちろん連続的に変異するので明瞭に区別できるとは限らない。たとえば、インドネシアのジャワ島の熱帯山地林は林冠は35m以上あるが、優占種ははっきりしていて、ブナ科のCastanopsisとツバキ科のSchima wallichiiであり、ちょうど両者の中間的である。
これが熱帯山地多雨林と思われる。斜面下部に位置し、樹高が高い。植物を観察する時間はなかったが、文献によると、優占度が高い種はミズキ科のMastixia、クスノキ科のPhoebe、モクレン科のParachmeria、トウダイグサ科のGymnanthesなど。標高約1700m。

熱帯山地多雨林を外から見たところ。斜面下部の樹冠が大きい部分。尾根は樹冠が小さいので、熱帯山地常緑広葉樹林であろう。手前は火入れの跡。伝統的な焼畑はおそらくもう行われておらず、下に見える茶畑のような常畑にするための準備であろう。

こちらが尾根の熱帯山地常緑広葉樹林。標高は上の熱帯山地多雨林とほとんど同じ。標高1000m以上だと、標高よりも地形の影響が大きい。たとえ標高が低くても尾根には熱帯山地常緑広葉樹林が成立するし、標高が高くても谷には熱帯山地多雨林が成立する。中央の木はCastanopsis。優占種といっても、日本の照葉樹林のシイほどの優占度はない。

熱帯山地常緑広葉樹林を外から見たところ。個々の樹冠が小さく、林冠がのっぺりしていて日本の照葉樹林に似る。

上の森林の林床でみかけた稚樹。上と同種かどうかはわからないが、Castanopsisの稚樹だと思う。

これはMengsongに行く途中の標高1100mの曼傘村(布朗プーラン族の集落)付近でみかけたCastanopsisの親木。花序が直立する虫媒花。ブナ科のうち、Castanopsis、Castanea、Lithocarpus、Trigonobalanus verticellataがこのような花序をつける。いっぽう、Quercus、Fagus、Trigonobalanus doichangensis、Nothofagus(最近はナンキョクブナ科として独立させる)の花序は下垂する風媒花。

葉の裏が銀色のところは日本のシイに似る。

ラベル:生物学