台湾東部花蓮県の太魯閣(タロコ)国家公園で、標高3275mまでの垂直分布を観察した。霧のため視界が悪く、1000m以上については観察はやや断片的なものになったが、だいたいは把握できたと思う。
2000m以下 広葉樹林
2000-2500m 針広混交林
2500-3000m マツ林
3000-3275m ニイタカトドマツ林
おもに車窓からの観察だったので、2000m以下の広葉樹林では、優占種の識別が困難であった。500m以下では、オオバギやイチジク属、ラタン(籐、ツル性のヤシ)などが混じり、亜熱帯多雨林と呼ぶべき相観を呈する。1500mまでは道路脇の先駆種としてウラジロエノキ(ニレ科の常緑広葉樹、屋久島が北限)が優占する。1500mをすぎるとウラジロエノキにかわりタイワンハンノキが道端の先駆種となるが、発達した森林では広葉樹が優占し続ける。およそ1800mで最後の木性シダをみかけた。同じく1800mごろからマツが出現する。この標高帯の全域にわたって、常緑広葉樹が優占するが、落葉広葉樹もかなり多く、常緑広葉樹林と呼ぶには躊躇を感じる。
落葉樹が多いことを考慮してか、標高250mの燕子口の解説版は周囲の森林を「熱帯季節性雨林」と呼んでいた。しかし、北回帰線よりも北で、明瞭な冬がある台湾北部の森林を「熱帯林」と呼ぶのは不適切であろう。写真で示されている種も、一番上はホルトノキ(ホルトノキ科)、真中はハマビワ属で、日本本土の南部まで分布する種や分類群である。一番下のアカギ(トウダイグサ科、日本では沖縄に分布)は熱帯性と言ってもいいかもしれない。

標高300mの福磯断崖の反対側斜面。中央やや上よりに、ツル性ヤシのラタン(Calamus)が見える。

標高500mの天祥。落葉樹が多数混交する。

天祥に降りる歩道の入り口がある標高1000m地点。落葉のナラQuercusと常緑のカシCyclobalanopsisが並んで生えていた。台湾に自生するナラは1種だけなので、アベマキだと思われる。Cyclobalanopsisは13種もあるので同定は困難。ウラジロガシ・アラカシ・イチイガシ・ツクバネガシなどが日本との共通種。

2000mを過ぎるとニイタカトウヒ(Picea morrisonicola)が出現し始め、針広混交林となる。ヒノキ(またはベニヒ・ショウナンボク)も見かけるようになる。2150mの碧緑神木では、ランダイスギ(Cunninghamia lanceolata)とタイワンツガ(Tsuga chinensis)が出現する。
これが碧緑神木と名づけられたランダイスギ。

これがタイワンツガ。日本のツガに似て、幹先端が垂直には伸びず、斜上する。碧緑神木にあるカフェの下。

2200-2500mではニイタカトウヒが広葉樹の林冠から大きく上に抜きん出て、顕著な二段林の相観を呈する。ニイタカトウヒの台湾名は「台湾雲杉」。サルオガセが垂れ下がった姿はいかにも雲霧林という感じで、ふさわしい名前に思える。

標高2500m付近から反対斜面を見たところ。斜面上部と尾根には落葉樹が多く、常緑の斜面下部と対照的。尾根の一番上の平坦面にはマツ林が広がる。マツ林が山火事跡なら、落葉広葉樹林の成因はなんだろうか?季節風?斜面崩壊?

2500-3000mではマツ林となる。山火事跡に成立した二次林であろう。遷移が進めば、下部はニイタカトウヒが優占する針広混交林、上部はニイタカトドマツ林となるだろう。標高2565mの大禹嶺にて。

山地性のマツは何種かあるが、同定できなかった。ヤクタネゴヨウ(Pinus armandii var. amamiana)と同種のタカネゴヨウ(Pinus armandii)もあると思うが、時間がなく十分に観察できなかった。
3000-3275mはニイタカトドマツ(Abies kawakamii)の純林である。林床はササ(Yushania)で覆われる。 標高3100m程度。ニイタカトドマツの台湾名は「台湾冷杉」。森林限界のすぐ下で一番標高の高い森林帯を形成するので、これもふさわしい名前。

ところどころ、ササが草原状に広がり、低木状のマツやニイタカビャクシン(Juniperus squamata)が点在するところもある。このササ原も山火事跡に成立した二次植生であろう。標高は3000m程度で上の写真よりも標高が低い。

ラベル:生物学