2011年12月03日

物質循環

物質循環とは、「生態系の中で物質が物理的、化学的性質を変えながら循環すること」である(大辞泉)。
 
生態学の用語では、日本語の術語に対応する英語がはっきりしているものが多いが、物質循環に対応する一般的な英語はないような気がする。直訳すればmaterial cycleなどになるのだが、あまり見かけない。
 
生物地球化学的循環というのがほぼ同義で、英語ではbiogeochemical cycleと言い、こちらのほうが一般的なようだ。BiogeochemistryやGlobal Biogeochemical Cyclesというタイトルの学術雑誌もある。大手信人は日本語の「物質循環」に「biogeochemical cycles」をあてている(「森林水文学」森北出版)。
 
栄養塩(養分)循環(nutrient cycling)という言葉は一般的だが、水や炭素(水素・酸素も)はふつう栄養塩には含めない。炭素も含めるならば元素循環(element cyclingまたはelemental cycling)という言葉がある。しかし、複数の元素(水素+酸素)からなる水(H2O)の循環を元素循環に含めるのには違和感がある。
 
以下がGoogle Scholarの検索結果のヒット数。循環に対してはcycle、cycling、circulationなどがあるが、cyclingを用いるのが一番ふつうのようだ。ヒット数の後のかっこ内に記した生態学の教科書が、それぞれの英語を「物質循環」に対してあてている。
 
material cycle 3220(「生態学事典」共立出版、「地球生態学」岩波書店)
material cycling 2630
material circulation 2860(「ベーシックマスター生態学」オーム社)
materials cycle 1520 
materials cycling  341 (「生態学入門」生物研究社)
materials circulation 873
biogeochemical cycle 11000
biogeochemical cycling 22800
biogeochemical circulation 266
nutrient cycle 9320
nutrient cycling 154000
nutrient circulation 1390
element cycle 1010 ("Terrestrial Ecosystem Ecology" Cambridge Univ. Press)
element cycling 4370
element circulation 557
elemental cycle 232
elemental cycling 2330
elemental circulation 29
 
そのほか、"matter flow" + ecosystemで検索すると1430件ヒットする。
物質循環の一部に着目すると物質はそこにとどまり、そして流れていく。これをstock (pool) とflowという。このflowに着目したのが、matter flowということになる。しかし、地球レベルで物質循環全体を見渡すと、エネルギーは最終的に熱として地球の外に出て行く(もとは太陽から地球に入ってきたエネルギーなので)ため流れるが、物質は地球の外には出て行かず循環することになる。なので、特定の生態系についてmatter flowというのは誤りではないが、物質循環一般・全体についてはcycling のほうが適切である。

結論:日本語の「物質循環」に対応する英語は「biogeochemical cycles」である。cyclesと複数形にするほうが、各種の物質の、という感じが出てよいと思う。日本語の「生物地球化学的循環」は「biogeochemical cycles」の直訳だが、ふつう地球レベルの物質循環(=Global biogeochemical cycles)を意味する。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 16:35| 覚え書き | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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