2011年12月03日

ピラカンサ

学生が公園の植物を調べている。いろいろ園芸植物が植えてあり、種同定がやっかいである。
 
通称ピラカンサと呼ばれるバラ科の低木がある。ピラカンサは属名Pyracanthaをカタカナ読みしたもの。日本には自生せず、外来種3種の総称である。いずれも明治から昭和初期に渡来した。秋に大量につく果実が美しいので、よく栽培される。赤くて目立つ割には鳥が食べないのでずっと残っている。未熟果にはシアンが含まれ、これが鳥の大量死の原因と疑われている。しかし、ダニやアブラムシの駆除に使われる農薬EPNが原因の場合もあるらしい。
 
3種のうち、中国南部原産のタトバナモドキ(P. angustifolia)は葉の裏に白い毛が密生し、果実がオレンジ色であることから容易に区別できる。
 
問題は、あと2種のトキワサンザシ(P. coccinea)とヒマラヤトキワサンザシ(カザンデマリ)(P. crenulata)で、区別が難しい。両種とも葉が無毛で、果実が真っ赤に熟す点が共通する。
 
山と渓谷社の林弥栄編『山渓カラー名鑑日本の樹木』と、茂木透写真『山渓ハンディ図鑑樹に咲く花』には、3種とも写真付きで載っている。『日本の樹木』を見ると、トキワサンザシとヒマラヤトキワサンザシの形態の記載はほとんど同じで、樹高がトキワサンザシでは2~6mになるのに、ヒマラヤトキワサンザシでは2mほどにしかならないのが大きな違いである。『樹に咲く花』によると、ヒマラヤトキワサンザシの葉はトキワサンザシより幅が狭く、ヒマラヤトキワサンザシの花序が無毛なのに対し、トキワサンザシの花序には細毛がある。
 
学生が調べている公園にあるのは、樹高が2m未満で葉が細く、果序が無毛なのでヒマラヤトキワサンザシと思われる。下の写真は近所の庭に植えてあったもので、やはりヒマラヤトキワサンザシと思われる。この木は幹をロープで引っ張って無理やり直立させていた。バラ科の果実は子房上位と下位のものがあるが、これは「へそ」の部分に萼片が見えるので子房下位で、リンゴ・ナシ・ビワ・と同じ(子房上位はイチゴ・ウメ・モモ・サクランボ)。
イメージ 1 
トキワサンザシは東欧からコーカサス山脈(黒海とカスピ海の間にある)が原産地で、ヒマラヤトキワサンザシは中国南部からカシミールにかけてのヒマラヤに分布する。なので、もとは同じものが異所的に分化したものかもしれない。栽培条件下でピラカンサ類には雑種も多く作られているらしいので、交雑も可能なのだろう。植物では「生物学的種概念」は有効ではない。
 
トキワサンザシとは、常緑のサンザシという意味。サンザシ属Crataegusは落葉樹で、北半球に広く分布し、日本には2種が長野県と北海道だけに自生する。中国原産のサンザシ(山査子、山櫨子、Crataegus cuneata)は漢方薬、ドライフルーツなどのために栽培される。
ラベル:生物学
posted by なまはんか at 04:25| 日本の(で見た)植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする